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2025年06月21日
映画「国宝」
昨夜TOHOシネマズ日比谷で観た「国宝」は評判に違わぬ物凄い映画で、最近はホンモノの芝居を観ても滅多に昂奮も高揚もしなくなったわたしが深夜の帰宅後なかなか寝つけず一睡も出来ないで仕方なく未明にこのブログを書くはめになった。従って今後ご覧になる方のために詳述は避けるが、旧来の歌舞伎ファンがご覧になっても十分満足される作品だろうと思う。ストーリーそのものは、そんなこと絶対にあり得ない!的なツッコミどころ満載なのに、それが最後までさほど気にならずに観られたのは、ホンモノの歌舞伎役者の出演がほとんどないのに、歌舞伎の舞台の再現が意外なほど本格的に見えたからだろう。わたしが子供の頃に例えば市川崑の「雪之丞変化」とか歌舞伎の舞台を再現してもさほど違和感のない作品が少なくなかったのは、当時の時代劇スターの多くが歌舞伎出身の俳優だったからで、それが今回はおよそ歌舞伎とは無縁で来たに違いない俳優ばかりがメインキャストなわけだから、その再現の困難さは尋常でなかったはずだ。しかしながら「国宝」と謳ったタイトルに恥じない作品にするためには、無縁な彼らがホンモノの歌舞伎役者に劣らぬシーンを現出しなくてはならないのである。まず白塗り化粧をしておかしく見えないようにするだけでも大変な努力だったはずで、主演の吉沢亮と横浜流星も持ち前の美貌だけであれほど綺麗に見せられたわけではないだろうし、踊りのシーンが非常に多くてそれを見飽きさせないのも、李監督の撮り方によるところが大きいとはいえ二人の努力の賜物であろう。もちろん部分的に良く撮っているにせよ、踊りもセリフも現行の歌舞伎役者に遜色ないどころか美しい分良いように見えさえするのだ。二人ばかりでなく、この作品は全体的にキャスティングの勝利といった趣もあって、歌舞伎界のいずれも化け物ぞろいの中で繰り広げられる、今どきフシギなくらいにベタな芸道物をきちんと成立させている。また渡辺謙が演じた二人の師匠となる人物を含めて、随所に最近まで実在した歌舞伎役者のモチーフやオマージュが看て取れるのも歌舞伎ファンには堪えられず、これはもう既に色んな人が指摘しているから書くが、なかでも田中泯の歌右衛門ぶりは圧巻の面白さだった。最後にクレジットを見れば、ロケ地となった劇場やスタッフを含めて松竹の協力がなければ成り立たなかった作品なのに東宝配給なのはフシギな気もしたけれど、これは松竹だと決して撮れなかったであろう強く攻めた作品であり、且つなまじ歌舞伎役者をメインに起用しなかったのが非常に功を奏した作品でもあった。
コメント (2)
3回観ました。作品全体も見応えたっぷりですし、一時期は歌舞伎座に通っていた身からも、演目シーンは十分に納得・満足できるものでした。舞台裏の様子がたっぷり描かれていたのも興味深かったです。田中泯の歌右衛門ぶりは、楽屋シーンの初登場の瞬間から強く思いました。ご本人とお会いになっている松井さんのお墨付きならなるほどです!
投稿者 Y.O. : 2025年06月21日 07:51
先に観た知り合いから「3時間超なのにあっという間。お手洗い行っておくべし。」と言われ、観るつもりでいました。「教皇選挙」に行った時予告編で観て、大河の主役だらけですごいな、と思いましたが、これまで殆ど知らなかった横浜流星が「べらぼう」でなかなか好演しているので、顔だけじゃないんだ!と注目していたところ。早速行こう。
投稿者 マロン : 2025年06月23日 09:09