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2025年06月13日
ザ・ヒューマンズ
昨夜、新国立劇場で観た「ザ・ヒューマンズ」はニューヨークを舞台にした家庭劇で、感謝祭に集った家族が実はさまざまな問題を抱えているのを前半は隠しながら、ややドタバタ風に進行するため、ニール・サイモンやウッディ・アレン調のコメディ?かと思いきや、後半は米国の現在を強く反映したシリアスさの窺えるドラマになる。車イスで認知症も発症している高齢の祖母、不倫で失職して妻との仲もギクシャクする元教師の父、失業と同時に恋人の女性も喪うレズの長女、仕事もよくわからないボーイフレンドとNYチャイナタウンのボロアパートで楽天的に生活を営む次女といったメンバーは、なるほど現代の米国小市民社会ってこんな感じなんだろうな〜という互いにリアルな会話を披露する一方で、時おり階上の住人が立てる異常な騒音が劇全体に不穏な空気を醸しだす。その騒音は9.11を経験したアメリカ人がヒヤッとさせられる物音でもあり、且つ階上の住人がチャイナタウンでは当然のことながら中国人であるという設定は、穿った見方をすれば現代アメリカ社会が抱える不安感の根源を象徴しているかのようでもあった。そして最後は独り取り残されて神に祈りを捧げるしかないアイリッシュ系カトリック教徒の父の姿もまた、アメリカの現代を象徴するかのように見えて、トランプ2.0政権を成立させてしまった国の凋落は既にこの作品が生まれた10年以上前から胚胎していたのを窺わせるのだった。日本での上演は多様な米社会のリアルにはどうしても届かない憾みがあるとはいえ、この時期に上演してもらったのは実にタイムリーだと個人的には思われました。