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2025年05月10日

さいたま芸術劇場公演「マクベス」5/8観劇

「マクベス」の吉田鋼太郎演出はさほど奇を衒わぬオーソドックスな仕立てでも観客を飽きさせない見応えのある舞台だった。それは同作品を「夫婦の物語」として一貫させ、マクベスとマクベス夫人に同等の比重を持たせた点にあるのだろうし、その夫人役をまた土屋太鳳が想像以上に好演した結果によるものかもしれない。ふだん小柄なはずの彼女が劇中で欧米の女優なみに大柄で風格のある佇まいを見せるのは、体幹がよほどしっかりとして躰の使い方も上手なせいだろう。とにかくマクベス夫人が大きな存在感を発揮するからこそ、魔女のみならず夫人にも操られていくマクベスの姿がはっきりと見えてくる。そして彼が夫人の死を知った瞬間、舞台の四方に張り巡らされた城壁の吊り物が一斉にバサッと音を立てて落ちる様子はあたかも夫人の魔法が解けたのを象徴し、マクベスも憑きものが落ちたように非凡な暴君から元の迷い多き武人に立ち戻って「明日、また明日、また明日と、時は小きざみな足どりで……」以下の有名な独白をする恰好だ。マクベス役の藤原竜也は幕開きからハイテンション過ぎてセリフが一本調子になりがちで、ドラマ展開のメリハリもつきにくく、中盤はまるで双極性と統合失調的な人物に映るのも現代的とはいい条、終盤が保たない印象を受けたのは舞台初日だったせいもあるに違いない。恐らく日を追うにつれて役がもっと手の内に入って来ることだろう。他で印象に残ったのは同僚バンクォー役の河内大和で、殺されるシーンの姿が演出と相俟って舞台に恐怖感を募らせた。おっ!と思わせたのはイングランドの将軍シーワード役の天宮良で、タップダンサーから俳優に転向して一時はトレンディな主役で沸かせたこの人も、今や重厚な脇役として舞台を引き締めていることに時の流れを感じさせられたものである。東儀秀樹による雅楽風のBGMは終始舞台にこの劇にふさわしい不穏な空気を漂わせてくれた。


コメント (1)


観劇前に今朝子先生の評を読めてラッキーでした。「魔女 吉田鋼太郎」に、???で頭の中がいっぱいになりましたが、考えてみれば魔女はマクベスにおいて大変重要な役割、かつ色付けの自由度が高いのかなと思い、どんな魔女になるのか期待を膨らませています。土屋太鳳のマクベス夫人も期待大です。かわいい清純な女の子のイメージが強い彼女が猛女をどう演じるのか。蜷川マクベスとかなり違った印象になるでしょうね。

投稿者 マロン : 2025年05月12日 09:44

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