トップページ > 中村仲蔵

2024年02月07日

中村仲蔵

昨夜池袋のブリリアホールで観たこの作品は、以前にNHKBSで放送された中村勘九郎主演「忠臣蔵狂詩曲No5中村仲蔵出世階段」と基本的には同じ構成で、仲蔵の自伝的エッセイや日記を情報源として当時の歌舞伎界におけるいわば権力闘争を主に扱った台本であり、それは現代の芸能界にも置き換えられそうな話なだけに、各人のエピソードをドラマチックにからめるなり、積み重ねる方法はいくらでもあるはずだが、如何せん、子供の頃に義母からみっちり芸を仕込まれた仲蔵が無惨な下積み時代経ても良い芝居をすることが決して諦められない心情の吐露一本槍で押し通すので、ストーリー的にはいささか単調な印象が否めない。とはいえ舞台そのものは結構面白く出来ていて、それは何よりも藤原竜也の主演に負うところが大きいのである。時代小説「仲蔵狂乱」の著者としては、実在の初代仲蔵が達者な子役上がりで長じてもその手の可愛らしさを喪わなかった人物だったと断言して憚らないのだけれど、藤原竜也は実にみごとにその仲蔵の可愛らしさを表現していた、というより身につけている感じで、その点ではTVの勘九郎より似合っていたかもしれない。余談ながら逆に勘九郎のほうは、後年の仲蔵が大変によく出来た人物として敬愛された一面を如実に窺わせたように思う。ともあれ全く係累のない身の上で実力本位にのし上がろうとする人物でありながら余り嫌みを感じさせなかったのは、仲蔵の持って生まれた可愛らしさだったことを藤原竜也は体現し得た点で、今までに観た誰が演じたのよりも仲蔵らしい気がした。ただし実在の仲蔵はセリフよりむしろ動きのほうで観客を魅了した役者だったように思うけれど、歌舞伎舞踊で観客を感動させるほど踊り込むのはさすがに難しいとみたのか、この作品では「外郎売」の言い立てを仲蔵にさせており、竜也がもののみごとにそれを成し遂げたあたりから舞台が一気にアゲアゲムードに変わってラストに雪崩れ込んだ恰好だ。仲蔵が新演出した斧定九郎の登場がラストのハイライトだが、これをポスター等に見られる斬新なサイケ調の扮装で見せるかと思いきや、ほぼ現行の歌舞伎通りに、しかも美しく見せたのはいささか意外なくらいだった。他にも下座やさまざまな点で意外なほど現行の歌舞伎を取り込んでいて、それをこなしつつスピーディな舞台運びに徹した俳優陣の奮闘ぶりは評価されてしかるべきだろう。四代目團十郎に扮した高嶋政宏がその引退口上でこれまた意外なほどいい味を出していたのも書いておきたい。


コメントしてください




ログイン情報を記憶しますか?


確認ボタンをクリックして、コメントの内容をご確認の上、投稿をお願いします。


【迷惑コメントについて】
・他サイトへ誘導するためのリンク、存在しないメールアドレス、 フリーメールアドレス、不適切なURL、不適切な言葉が記述されていると コメントが表示されず自動削除される可能性があります。