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2022年09月17日
ヘンリー八世
2020年にさいたま芸術劇場で初演してコロナ禍で途中休演を余儀なくされた「ヘンリー八世」の感想は既に当ブログに書いたし(2020/2/15)、今回やり直し再演の劇場プログラムでそれを公表もしているので、ここではもう多くを語るつもりはないが、今回の再演はバージョンUPでよりスタイリッシュとなり、昨夜の初日は十分見応えがあったことを伝えておきたい。一つには初演でいささか曖昧に感じられた解釈がスッキリしたせいか、ヘンリー八世がキャサリン妃を愛しながらも離縁に至る心理過程を吐露する長い独白と、傷ついたキャサリン妃の苦悩が前半のクライマックスとして際立っていた。この二つの主役は阿部寛と宮本裕子という配役で初めて成立したように思えるくらい、戯曲のイメージをもはるかに超えて魅力的な存在に映る舞台であった。
二人の仲を裂いたウルジー卿の没落を吉田鋼太郎は初演に比してやや控えめというか、今回はよりリアルな演技で現代性を持たせているが、一方でシェイクスピア劇ならではの謳い上げる名調子が抑えられたせいで役がやや小さくなったように見えたのはちょっと残念である。歌舞伎用語でいうところの達者な役者ほど世話に流れて、時代物の大きさを損なうといった感じに近いだろうか。今回は手馴れたせいか他の役者たちのセリフもリアルに聞こえて面白くなった部分と、それでは処理しきれないシェイクスピア劇のセリフとの折り合いの悪さがいささか耳についた気もする。
前回より自信を持って明快に演じていたのは王の寵臣クランマー大司教役の金子大地で、やっと劇全体を締めくくる役にふさわしい役者と見えたのは何よりだった。その締めくくりの場面ヘンリー八世の娘エリザベス王女の洗礼式が、妙にビビッドでタイムリーに見えたのは、現在の英国で行われている儀式とどこか重なっているせいだろう。この王女が後にエリザベス一世として英国に大繁栄をもたらす存在だと予言するクランマーが「その先のことは知りたくないのですが、姫も死なねばならぬ」というセリフを今聞くと、わたしはやはり今日のエリザベス二世崩御のニュースを想い起こさずにはいられなかったのであります(v_v)