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2022年06月07日

パンドラの鐘

今日の午後は渋谷シアターコクーンで野田秀樹作「パンドラの鐘」を観劇。この作品は1999年に野田自身の演出と蜷川演出の2バージョンで上演されて話題を呼び、ワタシは2バージョンとも観たが、当時は野田戯曲にしてはテーマがストレート過ぎて逆に底が浅く感じられ、駒場時代から観ているワタシの周りでも世評ほどには評価が高くなかったように記憶する。まして今回の上演は演出もキャストも相当に若返りして軽量級だから正直あまり期待しないで観たのだけれど、意外や意外ストーリーにわりあい素直に身を委ねることができたし、一瞬うるっと来るシーンもあって、この作品はひょっとしたら今回のようにキャスティングも時間も装舞台置もコンパクトに上演したほうがストレートに訴えかけられるのかも?という気がしたくらいである。もう一つには上演年代の違いもあって、1999年当時はバブル後といっても日本がまだ今日ほど落ち目じゃなかったから、パンドラの鐘=原爆でトドメを刺されて敗戦する日本の戦争責任の問題を真っ向から取りあげたこの作品を観ても、今回のように日本を可哀想に思う感情が沸々と湧き起こるというふうにはならなかったのだろう。初演時は2バージョン共に最終的には原爆の話になること自体いささか唐突な印象を受けたほど、日本を最初から前面に強く押し出さない演出だったように思うが、今回の杉浦邦生演出は歌舞伎の「道成寺」をそっくり戴いたような舞台装置で最初から日本を強く意識させ、それはそれでわかりやすくなってはいるものの、野田戯曲のとっちらかった開放的な感じは薄まっている。キャストでは大ベテランの白石加代子は別格として歌舞伎界から飛び入りの片岡亀藏が意外に面白く、主演の成田凌と葵わかなも予想以上に健闘していたし、大鶴佐助の起用も功を奏していて今後の舞台出演が大いに期待された。


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