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2022年04月28日

徳穂・徳陽の会

今春から初夏にかけてはコロナ明けを待ちかねた舞台芸能が目白押しのようで、今宵東京の国立小劇場で催された吾妻流の前家元と現家元の親子競演はコンパクトながらに予想以上の見応えがある舞踊会だった。現家元の徳陽が最初に披露した素踊りの『楠公』は楠木正成正行親子の「桜井の別れ」と「湊川の合戦」を描いた近代の比較的わかりやすい長唄曲で、スタティック (静的)な前半とダイナミックな後半が好対照をなしてフリそのものが飽きさせないのだが、徳陽も親子の演じ分けが巧みで、若年ながら格調高い名曲にふさわしい風格を身につけている点に感心させられた。親子競演ではあっても共演はないのが面白く、二番目は前家元の徳穂が花柳寿輔を迎えて狂乱物の『賤機帯』を披露。狂女役の徳穂は昔に比べて動きを控えめにした中で情感を強く伝える舞いぶりがみごとだったし、吾妻流らしく衣裳も素晴らしい。舟長役の寿輔は今回ワキに徹しようとしたせいか、いささか花に乏しいように見えたのが惜しまれる。大切りは徳陽の『京鹿子娘道成寺』吾妻流バージョンで、これは恐らく先代徳穂が創始したアズマカブキの産物とおぼしいが、『娘道成寺』のエッセンスを全て含めて上演時間を通常の半分の30分弱に仕立てたものながら、徳陽は「恋の手習い」の件をたっぷりと踊り込んで見応え十分の作品に仕上げていた。とかく日本舞踊の会といえば短くても半日は取られてしまうようなイメージだったが、今日のこの会は3本立て休憩時間含めて2時間というコンパクトさで且つ関西弁でいうところの「正味」の値打ちがある舞台を楽しめた印象だから、慌ただしい現代にふさわしく、今後の日本舞踊会の在り方に一つの指針を示したようにも感じられたのである。


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