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2021年09月18日

東海道四谷怪談

今月の歌舞伎座は第1部が六代目歌右衛門の二十年忌と銘打ちながら狂言立てがナゾ(?_?)なので、ワタシは第3部で玉仁左共演の『東海道四谷怪談』を観劇することに。ロビーには歌右衛門の遺影が飾られてそれに掌を合わせる観客の姿もちらほら見かけたが、ワタシとそう年齢の変わらない感じの女性客が「この人は凄い役者さんだったらしいのよ」とお連れに話しているのを聞いて、ああ、今や歌右衛門が完全に伝説の人と化したほど、歌舞伎の客層がガラッと変わってしまった現実を改めて痛感せざるを得なかった。なので今どきは劇評家でも歌右衛門のお岩様を観てなかったりするのだろうし、昔は團菊ジジイと揶揄したように、ワタシも歌右衛門ババアと呼ばれそうな年齢だけに、安易な比較は厳に慎みたいとは思いながら、どうしても鑑賞の基準というか、起点がそこになるのは仕方がないのである。簡単にいってしまえば歌右衛門と玉三郎の芸質の違いがこれほどハッキリとわかる演目も珍しいように思われた。この芝居はリアルな日常がするりと異形の世界に変貌する恐怖を捉えた名作中の名作で、玉三郎はリアルなセリフ術と身体を駆使した異形の造型でそれをみごとに表現している。面白いのはそこに連続性が見られないことで、前半は昔の新劇ばりにリアルなセリフやしぐさでお岩という女性の不幸を丹念に描きながら、スピーディーな髪すき後はまるで暗黒舞踏でも見せられているような異形のポーズの連続ワザで観客を圧倒するのだ。もちろんそれらのポーズはまんざら伝統を無視したものでもなく、大正期の名女形六代目尾上梅幸を彷彿させる型も見られた。それにしても歌右衛門が心理的にどんどん追い詰められて行くお岩様をじっくりとアナログ的に表現していたとするなら、玉三郎のお岩様は極めてデジタル的で前半と後半の連続性を見いだすのが困難なため、歌右衛門のお岩様のような生々しい怖さは意外となく、全体としてドラマよりもショーを見せられているに近い印象を受けたとはいえ、現代人には玉三郎のスピーディ且つデジタルなお岩様のほうがむしろ受け容れやすいに違いない。なぜなら歌右衛門の舞台を支えていたのは同優の類稀な集中力であり、今や観客が全世代を通じてそれだけの集中力には付き合いきれない時代になっていることも忘れてはならないのである。相手役の伊右衛門は当代のみならず過去に遡ってもこれだけぴったりな役者はいないように思える仁左衛門だが、この人の芸の若々しさは驚嘆すべきもので、今回は実に南北劇らしい酷薄な色悪に徹して、現代風にいうならサディスティックなサイコパスみたいな人格を非常にリアルに感じさせる一方、隠亡堀の場ではキマリの姿態の美しさに惚れ惚れさせられた。他の共演者はとにかくこの主役2人を引き立てるだけの存在のように見えなくもないけれど、それにしても若手にはもうちょっと頑張って、この際にしっかり勉強してほしいと思わずにはいられなかった(-.-;)y-゜゜


コメント (2)


私も同じ日の観劇でした!隠亡堀を間近で観たくて1等席にした甲斐があり、目の前の伊右衛門の美しさは絶品でした。仁左衛門伊右衛門は初めてで、見巧者だった叔母が「(八代目)幸四郎の伊右衛門の穏亡堀は惚れ惚れしたわ。」とよく話してましたが、今朝子さんも絶賛の色悪の極致を見れたのは、桜姫東文章といい、コロナ禍のせめての恩恵と言うべきか。今まで見た勘三郎・勘九郎・福助・菊之助と違って、お岩は怖くなく淡泊に感じたのは美しく見せるのが主眼の玉三郎だからか、と思いました。この日は友人とも偶然に遭遇。毎月会っていたのが1年半ぶりの再会で、格別な観劇でした。

投稿者 ウサコの母 : 2021年09月19日 18:33

今朝子さま、観劇評を書いてくださり有り難うございました。今朝子さまの率直な御感想が、一番勉強になります。「ウサコの母」さまの投稿も、興味深く読ませて頂きました。私もしっかりと予習後、9月2週に観劇をして仁左衛門さまに感動しました。桜姫の時は痩せすぎのように感じましたが、伊右衛門はピッタリ!
歌舞伎初心者の私の今の最大の謎は、どのようにして皆さんがチケットを手に入れてらっしゃるのかです。「歌舞伎会会員」の特典で一日早く購入しようと開始直後にログインした時には、殆どの座席が売り切れでした。
やはり、観劇に励んで1ランクアップを目指すしかないのでしょうか…。

投稿者 ヨセフ : 2021年09月20日 08:18

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