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2021年08月05日

雨花のけもの

東京のコロナ感染者がついに5000の大台に乗った今日は、さいたまネクスト・シアター最終公演『雨花のけもの』の初日とあって、色んな緊張感を持ってさいたま芸術劇場に駆けつけた次第。亡き蜷川幸雄の遺児たちともいえるネクストのメンバーが、最終公演に岩松了演出で細川洋平の新作戯曲を演じるというのはかなりの冒険だったろうが、結果ハメ書きかと思えるほどにメンバー1人1人の個性が印象に残る舞台に仕上がっていたのは何よりというべきか。おおよそのストーリーは何らかの事情、それは概ね何らかの欠陥だったりもする事情を抱えて行き場を喪った青年少女らを保護する富裕層の男女が、彼らをペットのような眼差しで見守るというより、文字通りペットとして養っている空間で進行し、そこに支配と被支配の関係性を見るのも可能だが、むしろ現代のペット事情のように支配して見える側がむしろペットに依存している状態でもあったりして、いずれも欠陥だらけの人間のグロテスクさをそこはかとないユーモアで包みつつ、現代の格差社会に対するシビアな皮肉も利かせた秀作といえるだろう。ラストは『桜の園』のフィルスのセリフ「この出来損ないめが」で幕を閉じるのがそれを象徴していた。小劇場とはいえ、ホテルオークラのロビーみたいに立派な大邸宅の居間を拵え、その巨大な窓から庭にある掘っ立て小屋が見える装置も象徴的で、そこに本水の雨や雪を降らせた演出にも最終公演らしい華やかさが感じられて、ああ、これがコロナ禍でなければ!という気持ちにもさせられた。今後はメンバーそれぞれが一本立ちの役者として活躍してくれるだろうが、今回改めてこのメンバーのユニットがもう観られないことを残念に思えるような舞台であったことを可としたい。


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