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2020年11月01日
フリムンシスターズ
今日は渋谷のシアターコクーンで松尾スズキ作・演出のミュージカル「フリムンシスターズ」を観た帰りにBunkamuraのカフェで翻訳家の松岡和子さんと食事。
松尾スズキのミュージカルは「キレイ」で既に定評を得ているが、今回も期待に違わぬ面白さ満載の上質なミュージカルで、日曜日とはいえ客席もほぼ満杯だったのは何よりだし、コロナ禍の憂鬱を吹き飛ばすにはもってこいの作品といえるかもしれない。そのコロナ禍で最も打撃を受けたであろう夜の街新宿2丁目の劇場を舞台に紡がれる物語という設定で、そこに登場するのはいずれもフリムン(沖縄弁で「いっちゃってる」みたいなニュアンスらしい)の人たちで、コンビニ幽霊と呼ばれて奴隷労働を自認している沖縄出身の女店員や、2億円の宝くじを恋人に持ち逃げされたと思い込んでいるゲイや、ある事件をきっかけに万引きをせずにはいられなくなった大女優や、ゲイに憎悪を抱いて殺人を犯す警官や、首吊り自殺に何度もトライする引きこもり青年などなど。彼らの現在と10年前の過去が語られるなかで今や世界中に沸き起こるLGBTや身体障害や人種や地域や過去の歴史等々によるサベツ問題を抽出し、尚かつそれを笑いの絶えない一大エンターテイメントに仕立てたのは、やはりこれまで健全そうな市民社会に隠れた偽善を暴き出す作劇に熟達した松尾スズキならではだろう。相変わらずセリフのキレがよく今回は舞台女優という役が登場するため演劇のマニアックなネタでも大いに笑わせてくれたし、中には「間違った指図にへらへら笑って自由を差しだすな」といった直球型のセリフで胸にズシンと響くものもある。2億円宝くじゲイを演じる阿部サダヲが今回は意外と落ち着いた役どころながら、その分ほかの役のキレ方が面白く、中でも秋山菜津子は大女優という役を演じたことによって、逆にいつもは達者に流れがちな演技に真実味がこもって見えた。コンビニ幽霊の役の長澤まさみは女優としてのオーラを完全に消して登場し、第一幕の終わり頃から徐々に光彩を放ってラストで全開するといった器用さを発揮したのに驚かされた。ほかにも巨大なオカマ役で狂言回しをする皆川猿時や挫折したミュージカル女優役の笠松はる等それぞれ個性的なメンバーが持ち味を存分に発揮した舞台は3時間以上に及ぶ上演を少しも飽きさせなかった。