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2019年12月25日
歌舞伎版「風の谷のナウシカ」
昨日はPDFメディアの三村さんと新橋演舞場で「風の谷のナウシカ」を昼夜いっきに観て案の定くたびれたのでブログの更新はしませんでした(^^ゞ
菊之助企画主演の変わりダネ新作では前回の「マハーバーラタ」を三村さんもワタシも高く評価したので今回もチャレンジしたのだが、難しい題材であるのはどっちが上とも言いがたいので、前回よかったのは台本と演出に拠るところが案外と大きかったのかもしれない。とにかく菊之助がいわゆる歌舞伎役者らしいとはいえないくらい高邁な精神と意欲を持って新作に取り組んでいるのは前回でよくわかったから、今回ジブリ作品を取りあげたのも大いに納得したし、ジブリ作品と歌舞伎とは決して悪くない相性で、むしろシェイクスピア作品等の西洋戯曲より遙かにふさわしいように思うのは、両者共にたとえば善と悪、男と女、自然と人間といったキリスト教に基づく二元論的な世界観とは対極のアジア的カオスが底流にあるためで、それこそが世界的に見てコンテンポラリーである所以だからして、今回の「ナウシカ」も作品的に成功すれば海外公演が待望されたに違いなく、その意味でも脚本と演出がもっともっと十分に練られてしかるべきだったように思う。
原作に描かれたストーリーは超おおざっぱにいえば、止むことの無い人類の闘争とそれによって破壊された地球環境の謎に挑む純粋で一途な少女と、彼女に出会うことで共鳴し合う人間と人間外の生物が織りなすある面おぞましくも非常に美しい世界なのだが、これを「戦争は環境も破壊する人類最悪の行為だ」みたいな単純なテーゼを導きだせるような舞台にしておけば歌舞伎ファンも理解できて受けるんじゃないか?でもって歌舞伎の常套的な演出を繰りだせば歌舞伎を知らない観客に受けるんじゃないか?的な下心でまとめあげたかに見える台本と演出は、しかしながら昨日観た限りだと双方を熱く沸き立たせるまでの効果は生まなかったようである。演劇はテーゼの前に当然ながら「ドラマ」が必要で、今回の「ナウシカ」ではヒロインが腐海と王蟲の謎を解くことによって少女から母なる存在になるまでの人間的な成長を遂げるところを最大のドラマとしたのはいいとしても、あまり原作を刈り込まない脚本だから登場人物が多すぎてストーリーが散漫に流れてしまい、結果、肝腎のポイントが巧く伝わらない憾みがあった。これをまた演出が近頃めずらしいくらいの多幕転換にしたため冗漫なこと夥しい舞台となったのは如何ともしがたい。プロジェクションマッピングをもっと使えば場面転換をよりスピーディに且つダイナミックにできるはずなのに、なんで幕引いてばっかりいるんだろう?これはひょっとしてエコのつもりなんだろうか(?_?)と思っちゃったくらいにフシギでした。役者は前回と同様に七之助と松也が参画しているのはこのチームの大きな強みで、七之助が戦場の指揮官でもある皇女クシャナをぴったりのニンで演じており、松也は剣豪ユパをどっしりとした役どころとして演じながらも、時にアドリブ連発で客席をくすぐったり、本水でアクロバティックな立ち回りをしたりといった器用さを発揮。同じく昼の部に本水の立ち回りで奮闘した尾上右近が夜の部では巨神兵オーマの精として獅子の毛振りを披露。若手が奮闘する一方では早くも老練な役者というべきなのかも?の又五郎や歌六が舞台をしっかり引き締めていた。菊之助は昼の部ラストの宙乗りでワーこれはほんとにナウシカだ!と思わず叫びたくなるような立ち姿を見せて、宝塚版「ポーの一族」の明日海りおがほんとにエドガーだったのを想い出させるような、アニメ激似せの役作りにもすっかり感心させられました(*^^)v
コメント (1)
「歌舞伎の常套的な演出を繰りだせば歌舞伎を知らない観客に受けるんじゃないか」というのは、私に限っては、たいして受けなかったです
私は、土曜日に行ったせいか、いつもの歌舞伎座、演舞場の観客層より20才~30才くらい若い感じでした
40代50代の夫婦?カップルが多かったように思います(ジブリファンなんでしょうねぇ)
私も、昼夜と同じ日に見通して、お尻が痛くなっちゃいました
私は、夜の部から買って、昼の部を買おうとしたら、全然もう席がなくて、2つ並びの席が買えなくて、バラバラで席をとりました。
でも、他の方のお話では「夜の部から買うの正解!私、昼の部から買ったら、もうほんとに席なくて、仕方ないから別の日でやっと夜が買えました」ということでした
昼の部、私の両隣が50代の夫婦でした。
確かに、冗長というのか、いまいち盛り上がらないというか、でも私は、原作マンガを読んで無いけど、「原作マンガは映画に比べて、暗くて・わかりにくくて・ドロドロしてる」という意見を読んでたので、その原作マンガを歌舞伎化するのだから、もっと退屈でウンザリするようなものと予想してたから、予想よりはマシで、ホッとしました
見ているうちに、鼾が聞こえてきて、隣りのご夫婦の夫さんがぐっすり眠ってました
演舞場や歌舞伎座で眠ってる人はよく見かけるけど、イビキって、初めてで、新鮮でした
七之助の美しさ、すごかったです!声も大好き
はい、松也、ユパにピッタリ!!
もちろん、右近さんもよかったです。
筋書きを開いて、最初に墨で黒々と鈴木敏夫の「生きねば。」とあるのが、メッセージなんですかね
もののけ姫のポスターにも、「生きろ。」とあったし
序幕が、映画になってた部分かな
原作マンガは12年の長い時をかけて、時々連載して、続いていったものらしい
その間に、ソ連崩壊があって、どちらかというと資本主義の超大国より、社会主義の世界にシンパシーを持ってた作者たちの考え方も変化していったという
連載でちょうど土鬼ドルクが崩壊するところをかいてた時で、「土鬼のような帝国が、こんなに簡単に崩壊しちゃうかな」と自問してたら、もっと簡単にソ連が崩壊してしまって、あっけにとられたという
あ、ドルクの皇帝継承者ミラルパとナムリス、巳之助さん、合ってたと思います
推測ですが、きっと原作マンガのデープなファンの人って、ものすごく思い入れが深くて、これもあれも全部とりこぼしなく、感動したところを入れ込みたい!と強い思いがあって、あんな風になっちゃったんでしょうねぇ
これを東劇で上映するような映画にするということらしいですけど、あれをそのまま映画にするのとは別に、複数の人にこの7時間を2時間とか2時間半に編集するのをやってもらったらどうでしょう?
新海誠でも佐藤信介でも武内秀樹でも三谷幸喜でもいろんな才能で、それぞれに編集してもらって、いくつかのパターンで見てみたいです
劇の感想とは全然、関係ないことですが、母性についてです
ナウシカでの母親のイメージです
幼いナウシカがオームの幼虫を拾う場面
母親は「こっちを見てるだけで何もしてくれない母親」です
宮崎駿は「母親がかばってくれなかったとも書かなかったけど」
それが自分の中でだんだん棘のようになっていき、10年くらいして、「突然、ナウシカから「母親は私を愛さなかった」という言葉が出てきたんですよ」
うーん、そうですか
And you Too Brutus
投稿者 せろり : 2019年12月26日 16:01