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2019年07月12日

骨と十字架

昨夜は新国立劇場で野木萌葱作・小川絵梨子演出「骨と十字架」を文春の内山さんと観て帰りが遅くなったのでブログの更新はしませんでした<(_ _)>
ワタシは幼稚園から大学の寮まで一応ミッション育ちなので、最初の人間はアダムで、アダムの肋骨からエヴァが作られたという創世記神話を始めに聞かされていたから、その話とピテカントロプスエレクトスとかの話を神父様やシスターや信者の人たちは一体どう折り合いをつけて理解してるんだろう (?_? )とフシギに思っていたことが実際あったのだが、「骨と十字架」は単純にいうともろにそのことをテーマにした作品で、実在の神父ティヤール・ド・シャルダンの生涯をモデルにしている。シャルダンは信仰心の厚い司祭である一方、優れた地質学者や古生物学者として進化論を肯定したため、祖国フランスを逐われて中国の伝道に派遣されるが、そこでなんと北京原人の発掘に携わるという、ある意味で皮肉な運命に見舞われても、果たして彼の科学的探究心と信仰心は揺らがずに両立して保たれるのか?といった命題が、彼と彼を取り巻く聖職者たちの会話劇として展開される。人間は神の手による進化の軸であり、その矢印の先端であるとした彼の思想は今日のイテリジェント・デザイン説にも通じるものがあるが、その危うく両立しているバランスは科学の進歩によって必ず崩壊すると唱える者や、頑なに進化論を認めない聖職者も周りにいて、彼らによる観念的な会話が交わされてゆく作劇自体も日本の戯曲には珍しく、むしろ西欧の翻訳劇に近いタッチといえそうだ。この戯曲を小川演出は求心力のある舞台美術と照明の力を借りて、地味ながら手堅い俳優陣の演技を繊細にまとめあげ、静謐で且つ力強い舞台に仕上げて見せた。とはいえ日本人にはイマイチ伝わりにくいテーマのようにも思えるので、どちらかといえば硬派の翻訳劇がお好きな方にオススメしたい。


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