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2019年04月07日

第17回 はなやぐらの会

写真は会場に近い弁慶橋から撮した、まだ散ってなかった桜です。
鶴澤寛也主宰の会も早や17回を迎えた今回の演目は「近頃河原の達引」。通称「堀川」といえば、ワタシが子供の頃は字が読めなかったばあやさんでも「そりゃ聞こえぬ伝兵衛さん」のクドキを知ってたくらいに義太夫節の中でも大変にポピュラーだった名曲である。しかも義太夫節研究の大家杉山其日庵はそうなった理由を三味線の曲の素晴らしさに求めているようだから、つまりは演目自体が主宰者のしどころたっぷりであることに間違いないのだけれど、それにしても今回は例年にまして三味線の存在感を強く発揮した演奏ぶりだったといえそうだ。
ストーリーは殺人罪で手配中の男伝兵衛と愛人関係にあるおしゅんとその家族の間で展開され、何とか二人の仲を裂いておしゅんの命を救おうとする家族に対し、落ち目の男を見捨てて裏切るのは人間として恥ずべきことではないかという理屈を唱えるおしゅん。社会の最底辺で生きるおしゅんの母も兄もその純朴な理屈に説得されて二人の仲を許す様は、まさに近松のいう「義理に詰まりて哀れ」を地で行くかたちで、極めて日本人らしい良心的な庶民の描き方であろう。今や義太夫界唯一の名人ともいえる竹本駒之助がこの間のおしゅんの性根や母と兄の心境を実に細やかに語り分けて閉じられた空間での緊密な関係性を描き出し、その丁寧な語りの描写をみごとに助けて且つ緊迫感溢れる時の流れを演出し得た今回の寛也の演奏には敬意を表したい。段切れは心中に向かう二人の門出を兄が猿回しで寿ぐという設定によって、ツレ弾きの津賀花とも息ぴったりの、派手でぱあっと明るく発散しつつ深い哀愁を滲ませる好演奏だった。演奏終了後の対談でゲストの篠井英介が、前回の演奏から進境著しい寛也のこの間の精進ぶりを讃えたのは全く同感で、名人駒之助の胸を借りるという印象が強かったこの会も、寛也が同格とはいわないまでもきちんとした相三味線に納まったふうに聴けるようになったのは何よりである。


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