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2019年03月16日

木ノ下歌舞伎 糸井版 摂州合邦辻

神奈川芸術劇場では昨日の追加公演まで即完売の満席状態だったから、今さらここで紹介しても仕方ないようなもんなんだけれど、取り敢えず面白かったことだけはお伝えしておこうと思う。
原作はお家騒動を背景に継母の玉手御前(幼名お辻)が義理の息子俊徳丸に恋をしたスキャンダラスな事件の顛末と真相を比較的シンプル且つコンパクトに描いた浄瑠璃作品だが、直接には能の「弱法師」や説経節の「しゅんとく丸」に典拠した、いわゆる貴種流離や仏教の日想観を強く反映した日本古来の王道を行くドラマといってもいいだろう。今回の糸井版では原作の持つドメスティックな側面に光を当てて、お家騒動になった高安家のフクザツな親子関係と、お辻とその父親の合邦母親のおとくの核家族を対比させることで、親子関係の喪失と核家族の崩壊といったリアルな現代的視点を盛り込ませることに成功している。その成否は浄瑠璃原作の詞章を現代的なセリフと同様のリアルなタッチで聞かせる俳優のエロキューションに拠るところが大きく、合邦を演じたこのチームの今やベテランともいえる武谷公雄とおとくを演じた西田夏奈子の達者ぶりが際立っていた。西田は浄瑠璃のハイライトの曲節をヴァイオリンのナマ演奏で表現する凄ワザを「心中天の網島」に引き続いて発揮し、このチームの力強い新戦力といってもいい。木ノ下歌舞伎の面白さは古典作品の現代的な読み解きもさることながら、これまで余り一般には認識されていなかった実力と魅力を備えた俳優陣の発掘にもあって、今回は多彩な声の魅力を備えた女優内田慈を玉手御前に、憂いを帯びた甘い顔立ちの美青年田川隼嗣を俊徳丸に起用したのも成功している。糸井版ならではのバラード風ミュージカル仕立てで現代的な日常の夕景が綴られるさまや、ラストの百万遍の数珠が天体に擬せられていくさまで宇宙的な広がりを見せて仏教の日想観を現代風に取り込んだ点も特筆に値しよう。


コメント (1)


「合邦辻」、これまでの木ノ下歌舞伎の中で一番分かり易かったように感じました。複雑な人間関係もつかみやすく、ミュージカル仕立ても抵抗なく、武谷さん・西田さん夫婦は安定して支えており、特に西田さんの太棹三味線を思わせるバイオリンは現代の浄瑠璃で、すっかり引き込まれました。木ノ下氏には昨年から週刊アエラの取材が入っているはずで、近々掲載されるのではと期待しており、年1本は新作を発表してほしいものです。先日書きこんだ「寺子屋」は<戸浪>で、失礼しました。

投稿者 ウサコの母 : 2019年03月17日 21:46

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