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2018年11月09日

第三世代

昨晩はさいたま芸術劇場で「世界最前線の演劇」シリーズ2『第三世代』を観劇。もともとドイツとイスラエルとパレスチナの若い俳優たちのワークショップという形で作られドイツで初演された作品を、今回は全員日本人が日本語で演じるという形を取るが、これが意外なほど普遍的かつ刺激的な舞台として完成され、今日の世界の諸問題を凝縮したドラマのように見えるので、ハードな観劇体験をお求めの方には是非ともオススメしたい。
ドイツ戦前のナチスの弾圧で欧州の土地を逐われたユダヤ人によって戦後にイスラエル国家が建設されて、今度はそのことでパレスチナの人びとが土地を逐われた難民となって欧州に押し寄せるという皮肉な現実くらいは日本でも多くの人が知っているだろうが、個々の傷痕が今なお具体的にどの程度残っているかはほとんどの人が知らないのではなかろうか。各国の中でもさまざまなスタンスがあって、たとえばパレスチナに対する世界の救援物資は一般人に渡らず概ねハマスに着服されてしまうようなことが起きるらしい一方で、ドイツはホロコースト記念施設の維持やイスラエルに対する資金提供で今日もなお巨額な予算が計上されていることに不満を覚える人びとが出始めたりもして、いずれも一筋縄ではいかないシビアな現実が露わに語られてゆく。そこに普遍的に見えてくるのは、被害者が立場を変えると今度は加害者になってしまう現実と、それゆえに被害者意識に立脚した要求は大変な苛立ちを覚えさせる結果となりやすい時代になったことの恐ろしさであり、この問題は欧州のみならずアジアにも共通して日本が全く無縁でないことは当然気づかされるのだった。作品全体が各国のワークショップの披露という形式を取るメタシアターでもあって、現代ではあらゆる表現が経済に絡め取られるという現実をも鋭く突いたエンディングは観る者をさらに考えさせるところがあるだろう。本来各国の俳優によって違った言語で上演されるはずの台本を全員日本人が演じることに最初は正直いささか違和感もあったのだが、だんだんそれが自然で、より普遍的な舞台として観られるようにしてくれたさいたまネクスト・シアターのメンバー全員の熱演を讃えたい。


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