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2018年05月17日
ヘンリー五世
新国立劇場でシェイクスピア作・鵜山仁演出「ヘンリー五世」を観る前に大宮駅ナカで食事。今日に限って初台にギリギリ到着の予定を組んだら京王線の事故で開演時間に間に合わないはめに。この新国立のシェイクスピアシリーズも今や大変な人気を得ているようで、遅れて入るのが難しいほど客席がびっしり埋まっていたのも意外だったが、日本でさほどポピュラーでない本作がまた意外なほど面白いのに感心した。その理由は「戦争」というものを真っ向から描いたところにあるのだろう。シェイクスピア作品には有名な薔薇戦争を始めさまざまな戦争が描かれているとはいえ、古今東西を問わず戦争というものからイメージされる普遍的なエッセンスを、これほどストレートに感じさせる作品はないような気がする。イングランドとフランスの隣国間戦争を背景として「戦争」における「王の責任」にまで言及したセリフがあるのはちょっと驚きで、17 世紀初頭の日本ではまだ阿国歌舞伎の時代にこの戯曲を書いたシェイクスピアの才能もさることながら、隣国間戦争をある面で冷静に見つめたドラマが享受された英国の民度の高さを改めて感じさせられたものである。非情な戦場における人心の揺れがシビアに描かれる一方で、国や地域による異文化の生みだすギャップがコミカルに描かれて道化的なキャラクターが活躍するなどエンターテイメント的要素の強い作品でもあって、むろん英国大勝利のストーリーだからでもあるだろうが、主人公ヘンリー五世が若かりしハル王子の面影を宿した陽性の描かれ方をしていることで、「戦争」が主題のわりに重苦しさの少ないない作品に仕上がっているのかもしれない。そのハル王子を演じた浦井健治が今回もヘンリー五世を好演し、ピストル役の岡本健一も引き続いてチームの一角を担うところにこのシリーズの魅力があるといえそうだ。横田栄司の達者な道化ぶりにも花があって印象に残った。