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2018年03月08日
赤道直下のマクベス
今日の午後は新国立劇場公演「赤道直下のマクベス」を観劇。名作「焼肉ドラゴン」で知られた鄭義信の書き下ろし・演出でB・C級戦犯の収容所生活を生々しく描いた作品だ。場所はクワイ河マーチで有名な映画「戦場にかける橋」の舞台にもなったシンガポールのチャンギ刑務所で、戦前の英国人捕虜収容所が戦後は英国の戦犯収容所として使われた皮肉な事実に基づいている。むろんここには日本人将校や兵隊の戦犯が大勢いたが、軍属として徴用されたことで罪に問われた朝鮮人も多数あったようだ。本作に登場するのも日本人と朝鮮人が半々で、いずれも処刑の日を待ちながら英国の虐待的な監視の下に置かれて餓えに苦しむ悲惨な境遇に置かれている。最期まで大東亜共栄圏の正当性を信じて疑わない日本人将校もいれば、自分たちは日本人の上官ひいては大本営に罪を押しつけられたと憤激する朝鮮人もいて、それぞれの人生や考え方の違い、罪の意識が明らかになっていくなかで、自分は「悪いことはしていないといってもしょせん女のいいわけ」に過ぎないと悟った上で、晴れ晴れとした死にざまを貫く朝鮮人の青年(池内博之)と、彼らに罪を負わせた日本人を代表して詫びたい気持ちを述べる年輩の日本人(平田満)との間には深い理解と友情が成り立つのだった。タイトルの 「マクベス」 は収容所の余興で演じられる芝居という設定で、それがなぜ「マクベス」なのかは当初疑問で、「女のいいわけ」という言葉を引き出すためかと腑に落ちはしたものの、やや牽強付会な印象がなくもなかった。ただ極めて重いテーマを扱って、絞首刑のシーンまでハッキリと見せる厳しい内容にしては、時にくすっと笑える部分もあるし、それほど後味が悪い芝居になっていないのは作者の力量であろうか。出演陣それぞれに健闘しているが、中でもベテランの平田満と木津誠之の好演が光る。ことに平田はいささか不器用な俳優だった昔を知っているだけに、今回の達者な演技には舌を巻いた次第。
コメント (1)
昨日見て、圧倒されました。舞台に最初から絞首台があって、これは相当覚悟してみないといけない芝居になりそうだ、辛い話に耐えられるだろうかと思ったのですが、過酷な状況でもひとはやっぱり悲しくも笑えることもあるし、役者さんの生身の迫真の演技を直に浴びる醍醐味も感じました。70年を経た今、こういう事実を芝居として訴えたいという鄭義信さんの深い思いに触れることが出来て良かったです。
投稿者 ひまねこ : 2018年03月11日 09:46