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2017年12月12日
欲望という名の電車
シアターコクーンでフィリップ・ブリーン演出の「欲望という名の電車」を観る前に近所で食事。
映画でヴィヴィアン・リー、日本では杉村春子が長らく演じたこの芝居の主役ブランチは女優のいわば試金石的なイメージがあるのだろう。今回は大竹しのぶが蜷川演出に次いでの再演で、達者な俳優だけあって後半の狂気に至る部分は鬼気迫る「芸」を感じさせるも、精神の繊細さ故に現実を受け容れられないブランチ・デュボアという人物が彷彿と立ち上がってくる気配は薄いといわなくてはならない。ブリーンの演出はいささか説明的にさえ感じさせるわかりやすさを主眼としたものだから、却って彼女の演技がさまざまな「芸」の羅列に見えてしまう憾みがある。やはりこの役はリアルを追究して演じるには大層むずかしい役なのだろうし、テネシー・ウイリアムズは象徴的な作品も多い作家だから、リアルなわかりやすさに傾くと取り落とすものがあるのかもしれない。その点ステラ役の鈴木杏はこの役をナチュラルに好演して、観客がついて行きやすい人物像を造形している。映画でマーロン・ブランドが演じたスタンリーの役は映像畑で活躍の北村一輝が意外なほどの健闘ぶりで、しっかりと自分の役にしている印象を受けた。