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2017年05月31日
木ノ下歌舞伎 東海道四谷怪談
30日は池袋のアウルスポットで木ノ下歌舞伎公演「東海道四谷怪談」を集英社の伊藤さんと一緒に大変面白く観て、終演後に木ノ下氏を交えて会食し、帰宅が午前サマなので続きは今夜書きます(^^ゞ
というわけで毎度見応えのある木ノ下歌舞伎は早めに観てお知らせをと思いつつ、ふしぎと初日がいつも所用と重なって拝見できないし、今回も宮崎出張と重なって、今日はもう千秋楽なので、まだご覧になっていなかった皆さまへのお知らせにはゼンゼンならないのだけれど、ひとまず自分が想い出す手がかり程度の簡単な感想だけは書いておこうと思う。
同行した伊藤さんは当初6時間という通し上演にやや怯んでらっしゃったが、実際に観れば長さを全く感じなかったとのことで、セリフから舞台転換に至るまで芝居全体が実にテンポ良く運んで少しも飽きさせなかった。中でも感心させられたのは第二幕「伊右衛門浪宅」から「隠亡堀」へのスピーディな転換で、切穴を用いてお梅と伊藤喜兵衛の本首を出した直後に傾斜舞台が左右に割れて、奈落が堀に見立てられ、そこに例の戸板が登場する仕組みは実にみごとである。全編を傾斜舞台で進行させるのは出演者にとってなかなかハードな取り組みながら、ここの転換は傾斜舞台ならでは見せ場だったといえる。
第三幕は「三角屋敷」の間に現行の歌舞伎では上演しない「小塩田隠れ家」(寺町孫兵衛内)を挟み込んでいるから、お岩と共に戸板に打ちつけられた小仏小平の事情がよくわかり、「忠臣蔵」のスピンオフとして「敵討ち」のモチーフがやはり重要なのを改めて認識させられた。結果、この芝居は共に「敵討ち」という不純?な目的で男と結ばれた姉妹の悲劇と読み解ける作品に仕上げたところがミソであろう。
もう一つのモチーフは「貧富の差」であり、チーマー風のファンションで登場する伊右衛門とその仲間たちや直助権兵衛らが「俺たちは何をしたいんだ?」と自問しながら夫婦ぐるみ破滅していく過程に、現代版「生世話」とでもいうべきコンテンポラリーなリアリティを持たせたところが、この上演の最大の成果だったかもしれない。かくして「夢の場」は伊右衛門夫婦も経済的に豊かでさえあれば平和な家庭が築けたことを象徴するシーンとして頗る有効なのである。
出演者は余り他で見ない人たちがほとんどなのに、いずれも身体能力が高くてセリフにしろ動作にしろ熟練の表現者と窺えて、現代性の豊かなお岩伊右衛門夫婦はもとより、主役以外の役でも十分注目に値するのが木ノ下歌舞伎の面白さである。今回は特に現行の歌舞伎だと登場しない小塩田又之丞や小仏小平が光って耳目を惹きつけ、ふつうなら端役扱いとなる秋山長兵衛の存在感が際立っていた。
コメント (1)
「東海道四谷怪談」昨日、楽日に見ました。今まで見た歌舞伎の舞台と重ねつつ、きのかぶさんの取り組みはいつもながら、心にしみる展開でした。観客層の若いことと、男性客の多いこと、またどこかの舞台で拝見したお顔もちらほら。ミーハーの私としては、ロビーで見た木下さんのいつもの黒い背広姿が頼もしく、次回は横浜KAATの「勧進帳」来年の3月までいきのびなくてはと思いました。
古典の豊かさを、今に生きる若者の群像劇として捉え、様々に交錯する因縁話と、忠臣蔵外伝の面白さを、江戸時代の目になって楽しむことの出来た6時間でした。また、本当に身体能力の高い役者さんたちは、それぞれ魅力的で、配役の妙も感じました。
もっと早くみて、リピートしたかったと思っています。松井先生、次回のきのかぶ、初日にみてレクチャーしてください!!
投稿者 順子 : 2017年06月01日 11:46