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2017年04月15日
根室釧路行
近年日本各地に数多くの旅行をしているが、今回ほど良い意味での予想外が重なったケースは珍しいかも。きっかけは新潮社田中範央氏から戴いた『颶風の王』という小説に感銘を受けた私が作者の河崎秋子さんに一度会ってみたいという話を集英社の伊藤さんと眞田さんにしたところ、同社小説すばる誌副編で河崎さん担当の野田さんがさっそく連絡を取られて同誌での対談が実現。ご本人はご実家の酪農を手伝いながらニュージーランド仕込みの飼育法で緬羊を手がける「羊飼い」ということなので、まずはそのご自宅を訪ねていろいろとお話を伺うべく、集英社の三人の担当編集者とライターの佐藤さん、カメラマンの鈴木さんと私の、総勢なんと六人もが根室別海町の河崎牧場に押しかけたのだった。
『颶風の王』もその後に発表された短編にも、今どきの若い人とは思えぬ峻烈なほどの厳しい表現には「孤高の人」という印象を強く受けたのだけれど、実際お目にかかってみれば恐ろしくフレンドリーで且つ大変な気遣いをなさる方と判明。小説のモデルにもなったお母様がまた頗るチャーミングなお人柄で、この親にしてこの子ありを実感させられながら、牧場ならではの自家製チーズやらジンギスカン、ラムとマトンの中間に当たるホゲットのローストなど盛り沢山のご馳走で厚かましくも総勢が六人が歓待を受けたのだった。
河崎牧場は乳牛約120頭、繁殖緬羊約20頭がいて、これを専らお兄さんご夫婦と秋子さんの三人が飼育に当たり、乳牛は毎朝晩5時台の搾乳が欠かせないし、緬羊は専ら戸外で飼育されているので冬場はマイナス20度以上の極寒で給餌をしなくてはならない。私たちの訪れた4/12日は雪混じりの耳を切るような寒風がそうした作業の過酷さを少しは想像させてくれたし、牧場の作業及び夕食や入浴等を済ませた午後十時以降の執筆で、朝は五時起きの毎日という中で書かれた小説であることを改めて考えさせられたのである。前半生がインドア派文科系女子の極みだった私にして、昨今は手応えのある現実に立脚しない文科系の脆弱さや身体性の喪失に思いを致すことが多々あるため、今度の旅行は残酷なまでにシビアなシーンを描ける河崎さんが、実は眩しいほどの健全さに裏打ちされている人だからこそ、決して後味の悪い作品が生まれないのを確認しに行ったようなものともいえそうだ。ともあれ翌4/13日に釧路で改めて行った対談は小説すばる誌7月号(6/17発売)に掲載されますのでご興味のある方はご覧下さい。
13日夜は釧路でお馴染みの炉端焼「ひょうたん」にて河崎さんを囲んでの会食となり、ここには『颶風の王』で河崎さんのファンになられた翻訳家の松岡和子さんや元ミセス副編の福光さんも参加。さらに翌14日は、なんと実は乗馬経験が全くといっていいほどない(!_+)という河崎さんと集英社の方たちを交えてのドサンコ外乗をして、皆さんいずれも「馬に乗るのってものスゴク面白かったです〜」とのエンジョイ感を洩らされたのでした。
ところで牛はいても馬はいない牧場に生まれ、乗馬経験もない河崎さんがどうして『颶風の王』で馬をあんなにイキイキと描けたのかというと、お隣り(といっても車で2、3分はかかる距離)が輓馬などに使う重種の生産牧場として有名な大河原牧場で、そこのオーナーと親しくされてさまざま知識を得られたのだとか。今回はその大河原牧場にもお邪魔をさせてもらい、オーナーからいろいろとお話を伺いつつ重種の馬たちをしっかり見学できました(*^^)v
写真は上から英国アニメのショーンでお馴染みサフォーク種の羊を世話する河崎さん。羊を飼う人たちの間では顔が黒いのを好きな人と、顔が白くないと羊とは認めたがらない人たちに分かれて論争になるのだとか(^0^;)
二番目の写真はタテガミふさふさで雄々しい重種ブルトンの種牡馬。そのサイズ感を出すために人間が前に立って撮してみたのが三番目の写真。下のは炉端焼「ひょうたん」を貸し切りにした一行と早春の釧路湿原でドサンコに乗る一行です。
コメント (1)
松井先生の釧路行を知って、大急ぎで河崎秋子さんの「虞風の王」(虞の字ごめんなさい、出てきません)読みました。常日頃から先生の馬に対する思い入れを感じているので、知識も無い自分にとって馬と人間のかかわる物語は、それほどの感慨もと思っていたのですが、三代にわたる展開は、一言でいえば、大変面白く興味深かったです。そして、この物語同様に、ネットで知った河崎さんの経歴と風貌に魅せられています。すばる7月号、楽しみに読みます。河崎さんのこれからのご活躍、期待しています。
投稿者 順子 : 2017年04月19日 11:13