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2016年11月10日

パパ、オブリガーダ

下北沢のシアター711でパニックシアターフリンジ公演「パパ、オブリガーダ」を旧友モリと一緒に観た帰りに近所のお好み焼き屋「南蛮亭」で食事。
女優の中村まり子が作・演出・主演を務めるこのシリーズ公演も今回は4年ぶりとかで私も久々に観る恰好で、この女優の才人ぶりに改めて感心させられた次第。たとえば学生劇団から出発して作・演出・主演をするようなケースは多々あれど、この人の場合は完全に新劇女優としてスタートを切り、中年からフランス戯曲の翻訳を手がけ始めたかと思えば、いつの間にか自身で新作戯曲を次々と生みだすという遅咲き狂い咲きのような極めて珍しいケースで、しかもそれらの作品が決して女優さんのお道楽といった感じではなく、ちゃんとプロフェッショナルな舞台にかけられる台本に仕上がっているからスゴイのである。今回は男運の悪い三姉妹とその家族の話で、そもそも30年間失踪していた彼女たちの父親が骨箱に入って家に戻って来たところからストーリーは始まる。30年間父親はいったいどこで何をしていたかのミステリーを孕みつつ、亡父を霊視しながらも彼がにこにこして現れる意味を理解し得ない長女、男性経験に乏しいまま中年を過ぎてとんでもない男にひっかかってしまう次女、夫の浮気を調査した結果あきれ返るような現実にショックを受ける三女、競馬に金を注ぎ込んだあげくに失踪した婿養子の夫が死んでも許せないでいる母親という、それぞれの事情や顛末を経て人間不信の不幸に見舞われた一家に、最後は心が洗われるような人物が登場して「パパ、オブリガード」(=ポルトガル語でパパありがとう)と言わしめるエンディングを迎える。東京を舞台にした日本人家族のストーリーであり3.11の震災もからめてはいるが、随所に笑えるセリフやしぐさを盛り込んだ西洋風のホームコメディの味わいで全体が進行し、展開も小気味よくテンポのいい仕上がりだ。それぞれのキャスティングもよくて役者ひとりひとりが個性を存分に発揮している。思えばこういう小劇場向きでオトナのウエルメイドプレイを書ける劇作家が今や日本にはほとんどいないのではなかろうか?てなことを考えつつ、コメディエンヌならではの引けた目線で作劇をものにした中村まり子の存在を演劇界は今後どう位置づけるのか実に興味深く思われたのだった。


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