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2016年08月06日

ビニールの城

シアターコクーンの蜷川幸雄追悼公演・唐十郎作・金守珍演出『ビニールの城』は、晩年の故人が数ある唐作品の中でこれを選んだのを十分に納得させる好舞台だった。私はこの作品を石橋蓮司・緑魔子夫妻の主宰する「第七病棟」の初演で観ていて、初演の印象とは随分と違い、やはり本来はレンジとマコさんの二人宛てに書かれた、空間的にもコンパクトなものを要求する舞台作品だとは思うのだけれど、それでも故人が同作品をコクーン劇場の演目にチョイスしたのは、作自体が持つ今日的なわかりやすさを伴う普遍性を買ったからだろう。タイトルの「ビニール」は 8 0年代当時に流行って社会問題化した「ビニ本」から来ていて、たまたま腹話術師の目に触れたビニ本の女が隣に住んでいたという設定で、一貫して男女の切ないすれ違いが描かれてゆく。腹話術師の男は相方の人形すなわち自分と語り合うこと以外には関心がなく、ビニ本をきっかけにその相方の人形を喪うも、ビニ本に写っているナマの女に決して関われないという設定は、今日に観たほうが当時よりも多くの人の共感を得られるに違いない。恐らくは写真集「サンタフェ」でブレイクした宮沢リエの主演も念頭にあって選ばれた作品なのではなかろうか。その宮沢リエは最初のほうこそセリフ回し等に魔子さんの影をちらつかせたものの、最後はしっかりと自分の役にしていて、魔子さんにかつてあった女の「聖」と「俗」、可憐さと妖しさを一体化させた女の魅力をこの人ならではの演技で伝えることに成功している。腹話術師役の森田剛も唐の難解なセリフをよく消化して伝えており、寺山修司に次いで今度は唐十郎という二大鬼才の戯曲を見事にこなし得た力量には感じ入った。金守珍の演出も手堅く唐作品の色を濃厚に打ち出してはいるが、劇場空間の使い方に関してはやはり故人ならこのコンパクトな作品をどう処理したか観たかったところである。


コメント (2)


無水鍋、まだ天火がない頃に母が使っていました。お赤飯や水にぬらした新聞紙で包んだ焼き芋が美味しかったですが、極めつけはパン。粘土みたいな生イーストを倉庫のような所に買いに行ったのを覚えてますが、焼き上がりは巨大なまんじゅう状態で、外側はパリパリと固く、中は細かい網の様に広がって弾力があり、バターをつけるともちもちして、素晴らしくおいしかったですが、半世紀も昔とは…。

投稿者 ウサコの母 : 2016年08月07日 10:50

森田剛さんは映画「ヒメアノ〜ル」の演技があまりに素晴らしかったので舞台も観たくなり、「ビニールの城」も鑑賞予定です。宮沢りえさんの舞台も好きなので楽しみです。

投稿者 ちえこ : 2016年08月07日 13:04

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