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2016年04月05日

明治座4月花形歌舞伎

今月の明治座は菊之助、勘九郎七之助兄弟がいずれも初役にチャレンジする意欲的な興行とあって興味深く、昼夜さすがにスケジュールがきつくて観たのは夜の部だけだが、少し早めに出かけて C Gデザイナーの三村さんと共に周辺の花見散策も楽しんだ次第。
夜の最初の演目「浮かれ心中」の主人公は、原作者井上ひさしが山東京伝の創造した艶二郎のパロディとして描いた人物であり、醜男の艶二郎が色男になりたい一心で次々とバカげた行動を取るように、才能もないのに戯作者としての名を挙げたい一心で色んな騒動を引き起こすわけだから、彼の行動原理こそが本来はコメディの核なのだけれど、原作が世に出て劇化された時点では恐らくその核が周知に過ぎたためか、敢えてそれを外してさらりと仕上げた脚本のため、演出や演技でその点を相当に補わないと、随所のくずぐりでは笑えても、芝居全体としてのおかしさがイマイチ観客に浸透しない憾みがあるのではなかろうか。現行の脚本は場面展開で優れた面が十分にあるとはいえ、今日に上演する際は序幕で少し補訂をするなりして、観客にこのコメディの核をわからせるような芝居に仕立て直す工夫が要りそうだ。ともあれ主演の勘九郎はくすぐりの部分だけでも芝居を何とか保たせたし、戯れとホンキがぶつかる劇的なラストシーンのセリフも十分に聞かせてくれたけれど、如何せん芝居全体として見る時は役者不足が否めず、若手ばかりで演じるにはいささか難しい演目だったかもしれない。ただし脇を固めるメンバーで出色の出来だったのは町奉行所の役人を演じた亀藏で、声柄からしてもこの役でこれ以上の人材は見つけられないようにすら思えた。
もう一本の演目は舞踊「二人椀久」を菊之助七之助コンビで上演。富十郎雀右衛門の円熟した舞台とはまだ比較できないものの、今後はこの二人で再演を重ねてほしいと思わせるだけの美しさは感じさせてくれた。踊地で按摩けんびき以降はもっと狂いに近くなって行ったほうが面白いのだが、これも再演を重ねる中で次第に備わってくるのだろうし、このコンビならではの味が出てくるまでにはまだ先が長そうだとはいえ、今回の初演時を観ておいて決して損はないともいえそうである。ことに菊之助は独りの死を迎える椀久のラストシーンが非常に美しく、どちらかといえば内向的な演技者であるこの人に向く演目のようにも思えた。


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