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2014年01月10日

冬眠する熊に添い寝してごらん

古川日出男作・蜷川幸雄演出のこの作品はきのうの初日を観たのだが、上演時間4時間で帰りが遅くなったから一日遅れでアップします。
芝居はどんな理屈をつけようが、とにかく現場が成立しているかどうかが何よりも大切だし、成立させるのはまさに座頭(ざがしら)の力業といってもよい。座頭は純然たる主演俳優の場合もあれば、作者を兼ねている俳優の場合もあるが、この公演に関しては、紛れもなく演出家の蜷川幸雄である。老いてなお神がかってる状態でテンションを維持し続ける彼の力業を今回ほど見せつけた公演はないといっても過言ではなかろう。何しろ小説書きを本業とする作家の書き下ろし戯曲は、芝居らしい活き活きとしたセリフよりも、やや説明的なセリフが多すぎるきらいもあるし、劇作家を本業とする人なら決して書きそうにない舞台化のしずらいシーンの連続だったりもする。しかし堂々と受けて立った蜷川はそれらのシーンを忠実に再現することで書き手のイメージをくっきりと立ちあがらせて、古川日出男という作家の昨今に少ない構えの巨きさといったものを見せつけたのである。ストーリーはひとりの女性詩人をめぐるエリート兄弟の葛藤と兄弟の一族の過去といった一見ドメスティックなモチーフから、大陸間との関係や海防意識の高まり、原発テロの脅威といった今日的なモチーフ、さらには日本の近現代史を貫く西洋列強と日本のエネルギー争奪戦といった気宇壮大なテーマへと発展し、セリフに叙情性がやや乏しい憾みはあれど、全盛期の唐十郎を彷彿とさせるような浪漫性が豊かに感じられ、着地点がどうなるか全く見えないまま自ずと気持ちが惹きつけられて4時間に及ぶ舞台を少しも飽きずに観られたのは、場面展開のみごとさもさることながら、役者全員が緊張感を持って舞台に臨んでいたからに他ならない。中でも客席の半分までを使って巨大な回転寿司屋のセットを組み、大勢の役者たちが四方八方から鮨の注文をつぎつぎ飛ばす中でラブシーンが始まるといった、まさに芝居の限界に挑戦したかのようなスペクタクルは驚嘆に値したし、熊や犬のクリーチャーが意外にリアルに活動する点もビジュアル面の魅力に加算されるだろう。兄弟の弟役を演じる KAT-TUN の上田竜也が素晴らしいフレッシュな演技を見せる一方で、兄役の井上芳雄は演技者として完全にひと皮剥けた感じで新たな魅力を発散しており、女性詩人役の鈴木杏も真正面から挑む演技に好感が持てた。他にも老け役の立石涼子がアクセントを添えつつ舞台をよく引き締めてくれた。


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