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2013年04月06日

NEW歌舞伎座

今日初めて再生した歌舞伎座に行って第一部の公演のみ観劇して帰ってきた。近々もう一度観劇する予定なので全館は見てまわらなかったが、内装も概ね前の歌舞伎座を踏襲しており、2階ロビーなんか展示絵画も含めて「まんまやん!」てな感じで、客席も同様ちょっと気が変わらない反面、オールドファンには改めて非常に落ち着ける空間に感じられた。ロビーは下手のほうを大幅に削って、上手にすべて片寄せているから、今日あたりはごった返して狭苦しい感じがしたものの、一方で、常時これくらいの客入りがあってごった返すくらいでないと、維持するのは大変かも?と思えるほどに、エスカレーターを始め新しい設備が充実した分諸経費が嵩みそうな劇場に見えた。もっとも3部制で2万円はやっぱりご祝儀相場としかいえず、まだ
当分はこうした大盛況が持続するにしても、それがどこまで続くかどうか全くわからない点ではアベノミスとよく似ているのかも。
ともあれ一部は序幕、中幕と群舞が続き、大切のみが芝居らしい芝居といった、やや物足りない狂言立てではあるが、久々に満席となった新しい劇場では役者の気の入り具合も違っているのがハッキリとわかる公演だった。序幕の踊りで芯を取る坂田藤十郎は、東宝歌舞伎的なイロモノの匂いが多少なくはないけれど、八一歳とはとても見えない若さをキープしている点と、根の明るい芸風が開場のめでたい雰囲気を盛りあげるのにぴったりだった。染五郎はさすがに以前よりふくらみが増して、大けがから復帰を果たして本当によかったと思えたし、魁春には亡き歌サマの面影が髣髴とする瞬間もあり、なんといっても感無量だったのは、子供の頃に手を引いたことのある松也と、生まれた時に「近松座」の稽古場でその報せを聞いた壱太郎が立派にふたりで組んで踊っている姿を見られたことで、ああ、私も本当に年を取っちゃったんだよな〜と思わざるを得ませんでした(;O;)
中幕の「お祭り」は「十八世中村勘三郞に捧ぐ」と銘打って上演されるだけあって、三津五郎以下、故人とゆかりのあるメンバーが勢ぞろいし、孫をつれた新勘九郎と七之助が花道に登場した時は思わずほろっときたものである。それぞれ仕ヌキの踊りであるにもかかわらず、演者ばかりでなく客席も含めての一体感が最も強く感じられた舞台といっていいかもしれない。
大切の「熊谷陣屋」は幕開きの熊谷の入りにおける熊谷役の吉右衛門と妻相模役の玉三郎の両人の気組みが素晴らしく、こんなハイテンションでこのまま進んだら最後まで保つんだろうか?と思わせるくらいだったが、藤の方の出から次第にテンションが下がり始め、肝腎の物語にはやや息切れ感があり、その後は各人がバラバラに芝居をしているような感じが否めなかった。芝居のこうした感じを昔は「はだはだになる」といったもので、なまじ大顔合わせになると起こりやすい現象でもあるのだけれど、「熊谷陣屋」のような丸本物の場合、それが悪く目に付くのは義太夫をベースにした一種の音楽劇だからであろう。丸本物には本来足取りすなわち緩急のテンポというものが定まっていて、そのテンポに沿って劇全体が盛り上がっていくものなのだが、この足取りを無視すると、指揮者不在のまま各演奏者がテクニックを勝手に発揮する演奏会のようなもので、テクニックには感心させられても音楽には感動させてもらえないのと似たようなことになるのだった。一方で丸本物のドラマ自体が今日の時代的な感性とあまりにもかけ離れているという点は、役者たちに従来の型を無視したさまざまな解釈の演技を要求しているようなところもあるのだろうと思う。この芝居だと、主君の意志を忖度してわが子を殺す夫と、勝手にわが子を殺されてしまう妻のドラマという現代的な視点が相模役の玉三郎によって持ち込まれ、従来のクドキとは全く違った演技を見せられてしまい、それはそれで泣けてしまうのだから、玉三郎という役者はやっぱり物凄い名優なのだけれど、芝居全体が原作のニュアンスとは程遠いものになってしまっている点を是とするか、非とするかは、もはや観客それぞれの判断に委ねられるしかないのだろうか。吉右衛門の熊谷も同様、わが子を殺して取り返しのつかないことをしたという悔恨や苦しみは十分過ぎるほど伝わって、これにも思わず泣けてしまったのだが、夫婦の嘆きが際立てば際立つほど、そもそもこのドラマの設定自体に無理があるように感じられてくるのは実に皮肉な話であって、この芝居が本来持っている無常観の大きなテーマには到底至らないのだった。丸本物はまた段切れに向かってメロディアスな度合いが増すものであり、渡りゼリフも敢えてメロディアスにいわれることによって、悲劇的なラストをも大団円に感じさせるのが、丸本物のみならず、日本の芝居の魅力だったはずなので、そうした快感が得られなかった点も残念だったとはいえ、今日にはこれ以上を望むべくもない豪華配役の舞台であるのは確かだった。


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コメント (1)


新しい歌舞伎座は椅子のクッションが良くなり、1階2等席の柱が無くなり、3階からすっぽんが見えるようになったことは嬉しいのですが、売店が整然としていてちょっとわくわくする雰囲気が無くなりました。テレビではやたら字幕ガイドが紹介されていましたが、舞台を観ていたら字幕画面を見る暇なんてないかと。展示物と違い、ライヴで芝居はどんどん進行していきますから。レンタル代払うなら筋書を買って幕間に読んだ方が良いと思います。

投稿者 tucci : 2013年04月08日 22:11

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