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2012年10月29日
るつぼ
私が生まれた年に上演された芝居で、当時アメリカに吹き荒れたアカ狩りのマッカーシー旋風を暗喩的に風刺したアーサー・ミラーの戯曲と知り興味を持って観たのだが、今日は晩ご飯もヌキにするほど体調がイマイチだったのは残念である。何しろ3時間以上の長丁場で、しかも緊密なセリフのやりとりだけで終始する非常にストイック且つ重厚な舞台のため体調万全で臨みたいところだった。
日本だと元禄時代に相当する17世紀末にアメリカのムラ社会で実際に起きた魔女狩りの事件を題材にし、集団ヒステリーの少女たちが次々と魔女を告発するかたちでムラ全体が崩壊へ向かう過程の中に初演当時のアカ狩りが髣髴とする仕掛けだが、一方で事の発端は夫婦関係が冷え込んだプロクター家で夫が女中のアビーに手を付けてしまい、アビーが彼を独占したい気持ちから妻を魔女に仕立てて陥れようとしたという実に個人的な動機にあった。最終的には夫婦の仲の真実が問われ、またプロクターという男の内面的な真実が暴き出されていくという、実にアメリカ的なシリアスな戯曲である。地味なキャスティングながら、プロクター役の池内博之やアビー役の鈴木杏はじめ役者各人それぞれの熱演で緊迫感のあふれる舞台だった。中でも
プロクターの妻という難役を栗田桃子が持ち前の静謐な声を巧く使って淡々としたセリフまわしで非常に説得力のある存在感を持たせた点に感心した。
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