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2012年01月03日

初芝居

寒波襲来の予報に怯えた関東の三が日だが、けさは暖かく感じられたので急に思い立って浅草へ歌舞伎を見に行った。三が日の観劇はン十年ぶりではないかと思う。年の瀬にたまたま松竹のチケットサイトを見たら、どの劇場も三が日に空席があるというありさまで、ひと頃からはちょっと考えられない危機的状況に陥っているのだろうかと心配にもなる一方、歌舞伎はやっぱり上演時間が長いし値段も高いから、こんな時代に敬遠されるのは当然かも?という気もしていて、私自身コスパ本位で選ぶと浅草新春歌舞伎になるし、幼い頃からよく知っている中村壱太郎が「廓文章」の夕霧を初役で務めているから、その応援のつもりもあって出かけたのだった。とにかくけさ起きて決めたことなのでむろんチケットは手もとになく、これまた久々のツッカケ客になって開演直前に劇場の窓口を訪ねたら、前から五列目の中央という超いい席が空いていたので即ゲットした(ちなみにどこの劇場でも、いつ何時VIP客が来るかわからないので、必ずこうしたテッポウ席と呼ばれる超いい席をギリギリまで売らずに残しているから、急に思い立って観劇すると案外いい席が確保できるのを知ってるとベンリですよ)。で、場内に入ると結構お客さんが入っていたのでホッとする。今や別に関係者ではないけれど、元は関係者だったからやはりお客さんが入っていない劇場を見るのは辛いものがあるのだった。
で、観た結果、一般的に考えると決して安い料金とはいえないものの、11時開演2時過ぎ終演という短めの公演もお正月にはもってこいだし、座組もコンパクトにしてこの値段なら、歌舞伎としてはまずまずの公演といってよかろうと思う。序幕は浜路の件を中心にした「八犬伝」の超ダイジェスト版で(八犬伝をまるで知らない人にはストーリーがわかりづらいかも)、亀治郎はいかにも座頭然とした犬山道節の役で登場するほか爺敵の蟇六を軽妙に演じて客席を沸かした。壱太郎はこの演目の浜路も演じて、本公演ではまさに立女形の扱いといえる。以前に比べると発声が安定してセリフまわしも整ってきたが、いわゆる「浜路くどき」の場面では、所作がクドキらしいフリにならず、思い入れのみのちまちました動きに終始したので、ここは躰を大きく使ってフリがきっぱりとしたクドキらし動きを見せてほしいというような注文を、劇場でお会いしたご母堂の吾妻徳彌さんに申しあげたのだけれど、たぶんお手本がない役であり、若い彼だとフリを自分で一から創りあげるのは難しいだろうし、誰かそうしたことも含めての演出をきちんと果たすべきだろうと思われたのだった。二枚目格の愛之助は「八犬伝」のだんまりにちらっと登場するも、メインは二幕目の「廓文章」で、当然ながら松嶋屋の型で演じて、これが意外に悪くないのである。松嶋屋の型はコミカルなフリが多くて下手をするとマンガチックになるし、現仁左衛門が孝夫の頃は本人が照れくさそうに演じるので観ているほうも困ったのだけれど、愛之助は若いにもかかわらずこの役をちっとも照れずに演じて実に可愛らしい男に見せてしまう。壱太郎も夕霧では堂々と大きくフリを演じてこの役の性根をしっかり伝えており、
おきさ役の春猿も花車方としての魅力を存分に発揮していた。もちろんまだまだこれからもっと大きな舞台になるよう各人の精進が必要とはいえ、現時点でも及第点は十分に取れる出来だったように思う。
せっかく浅草に行ったのですが、初詣は元旦の深夜に氷川様で済ましているので無理はすまいと思われた浅草寺の賑わいをフォトアップしておきます。


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コメント (4)


2日のNHKEテレで「こいつは春から縁起がいいわえ」で少しだけ「吉田屋」が映りましたが、可愛い伊左衛門と美しい夕霧はんやと思いましたが、松井様の評を読み、浅草に行くのが楽しみになりました。
確かに、孝夫さんが初めて伊左衛門をされた時には、ホンマニ照れくさそうで、見てる方がなんや恥ずかしいような、なんとも言えん気持ちになりました。その頃の孝夫さんより愛之助の方が若いですが、彼は照れてる余裕が無いんやろと思います。
部屋子として仕えた13代目の当たり役を、浅草とは言えあの若さでやらせて頂くのですから。

投稿者 お : 2012年01月03日 22:30

ぎりっぎりの方がエエ席取れるかも式は、ぶらり一人観の時やってみたいと思います。
らぶリンの伊左衛門、どんなんか、案じていましたが(またセリフが早口過ぎひんやろか・・)、
通通で的確な松井センセが見はったとおりでまぁまぁ鑑賞に堪え得れてよかったな、とホッ。
私、なんもらぶファンちゃいますけど、上方系が好きやから、あのお兄チャンに上手になってもらわな老後の楽しみに困りますやんか。
前にNHKのスタパに松方弘樹が役作りのときにラクな役は、普段の自分と一緒なタイプかそれか正反対なタイプで、一番難しいのはそれらの中間地点な人物の時だ、と言うてました。そうやとしたらば、らぶリンご自身とは伊左衛門みたいに今時風に言えばKYな、ポォ~としてるのか、正反対なキチキチっと理性派なんかどっちやろと、又ヘンテコリンな事を考えてしまいましたわ。


投稿者 毎晩晩酌 : 2012年01月03日 23:04

松井様
浅草の様子を拝読、心打たれました。


「お」様へ一言
「孝夫さんが初めて伊左衛門をされた時は…、その頃の孝夫さんより愛之助の方が若い…」とコメントされていますが、孝夫さんが初めて伊左衛門をなさったのは昭和47年8月、28歳の時でしたが。

投稿者 仁左衛門様ファン : 2012年01月04日 13:02

テッポウ席、教えていただき大感謝です。

投稿者 hanako : 2012年01月05日 09:46

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