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2011年12月06日

ルート99

さいたま芸術劇場でさいたまゴールドシアター第5回公演「ルート99」を観る前に大宮そごう内の「永坂更級」で翻訳家の松岡和子さんと食事。
「ルート99」はゴールドシアターの旗揚げに書き下ろした岩松了の新作だが、前回公演の「聖地」が高齢者所在不明問題が顕在化した中で実にタイムリーなテーマとストーリーだったのと同様、今回もまたこの時期にしてあまりにもタイムリーな基地問題を真っ向から扱った力作である。基地が無くなることを理想にする人びともいれば、それが国のためと信じて基地で働く人びともあり、基地を無くす希望を若い人に託して世を去った人びともあれば、基地が厳然とそこにある現実に絶望することから出発せざるを得ない若い世代もあるという様々な矛盾を抱えた基地問題を、岩松戯曲は敢えてどちらに偏ることなく、複雑な状況をそのままポンと投げだすような形で表現する。ストーリーは島を南北に貫く国道で島の銘菓がばらまかれたという事件の解釈をめぐって展開し、その事件が島を訪れた劇団によって舞台化されるという設定の下で、
演劇のなしうることは何かというメタ・シアター的な側面も現れてくるという構造的にも複雑な上に、岩松作品らしいドメスティックなからみもある3時間半にも及ぶ長編戯曲なのだけれど、これをちっともダレ場のない芝居に仕上げたのは蜷川演出の腕もさることながら、ここの劇団員が岩松戯曲にフィットしているせいかもしれない。とにかく大勢の劇団員ひとりひとりがセリフを全部自分のモノにしてナチュラルにしゃべっているのはちょっと驚くべきことで、今回は特に女優陣の活躍と技量にすっかり感心させられた。コミカルなセリフを巧みに聞かせる市役所職員もあれば、島民の益田はこの複雑な戯曲全体に芯を一本きっちり通す役割をしっかり果たしており、高齢の巫女(ミラ)はこの戯曲の白眉ともいえる美しいセリフを実年齢85歳を感じさせぬ美しい声で存分に聞かせてくれるし、劇中劇で歌舞伎の「忠臣蔵」モドキを演じたチームの達者ぶりにも舌を巻いた。いやはや去年の公演と比べても、格段にエンターテイメントとしての値打ちがあがったこの劇団は一体どこまで進化し続けるのだろう。蜷川演出ということで、旬の劇作家が全力投球の新作戯曲を提供するという贅沢さもあって、今ちょっと見逃せない劇団であるのは間違いない。


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