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2011年09月20日
カツカレー
広尾の東京都中央図書館内のカフェで食事。
関東大震災に見舞われた東京が完全に復興を遂げるのは7年後の昭和5年で、3月には帝都復興祭なる一大イベントが催されており、今日は午後からその詳細な資料を調べに中央図書館へ行って、それから新国立劇場で三島由紀夫作「朱雀家の滅亡」を観るという、何とも「昭和」な一日であった。大宮恵比寿間は南新宿ラインが直行するので広尾には意外に早く行けたし、広尾から初台までは大江戸線を使うとこれまた意外にベンリでとても効率の良い移動日でもあった。
「朱雀家の滅亡」は戯曲を知るばかりで舞台を観るのは今回が初めてである。ただし初演の中村伸郎と南美江を想像しながら戯曲を読んでとても優れた作品だという印象を持っていただけに、今回はちょっと観るのをためらったほどだけれど、國村準の主演が意外にハマったように感じたのは、見てくれはともかくも柔らかくて静謐な声柄のせいだろう。とにかく何よりもまずセリフを聴かせることが眼目となる三島戯曲は声柄やエロキューションで人を選ぶ必要があるが、その意味で今回成功したキャスティングは國村のみかもしれない。三島戯曲はこの作品に限らずストーリーだけを取りあげればセンチメンタルで古風なメロドラマだが、それを覆い隠すのは彼特有のロジカルなレトリックであり、レトリックをレトリックとして聴かせる技術が俳優の側にないと観客が辛い思いをする。終幕で「あなたお一人が、今そんな風に、生きのびておいでになる秘訣は何?」と息子の恋人に問い詰められる朱雀經隆に、三島は昭和天皇を重ねているはずで、情緒的には第3幕がクライマックスでも、観念的にはこの終幕がハイライトとともいうべきだから、この恋人役を演じる女優のエロキューションは非常に重要と考えなければならないにもかかわらず、演出と制作にその配慮がいささか足りなかったことは残念である。
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