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2011年06月09日
ハンバーグステーキ
渋谷・コクーン歌舞伎公演/四世鶴屋南北作・串田和美演出「盟三五大切」を観る前に東急レストラン街で食事。
早や17年目を迎えた今回のコクーン歌舞伎。作品としては再演ながら、初演がどんなだったか想いだせないくらい強く印象に残る舞台であり、賛否褒貶いろいろとあるだろうが、私自身はそれなりに面白く見せてもらった。
近ごろの演出ではシェイクスピアの「十二夜」でも串田ワールド全開という感じだったが、今回も同様で、台本や衣裳は歌舞伎からそう逸脱してはいないけれど、舞台美術は印象派絵画風のタッチだし、BGMはアダージョの弦楽合奏曲で、下座は三味線とチェロの合奏という、和洋折衷の舞台作りが、ただならぬ違和感を生み出しており、それが結果として、芝居全体を悪夢のように見せているという点で、ドイツ表現主義映画を想いださせる雰囲気だったのは、「十二夜」がフェリーニ映画を髣髴とさせたのに似て、やはり原作離れした串田ワールドだから、いわゆる江戸の生世話物を観に来た歌舞伎ファンは、ちょっと唖然だったりするかもしれない。
とにかく序幕で串田ワールドに入っていけるかどうかで賛否が分かれるだろうと思う。歌舞伎の下座音楽でならつい聞き流してしまうような軽いセリフのやりとりを、弦楽合奏曲のBGMで却ってよく聞こうとすることで、ヒロインの小万と三五郎の切っても切れない男女の結びつきがリアリティーを持って鮮明に浮かびあがるという点で、私はこの場を非常に面白く見た。ことに三五郎役の勘太郎が素晴らしくいい。この二人の関係の密度が最初から濃い分、源五兵衛という存在は完全な闖入者となり、芝居の前半はふたりの視点からそうした闖入者ホラーとして、後半は一転して源五兵衛の視点ですべては悪夢のように描かれる。したがって源五兵衛役の橋之助は、前半の五人斬りでは物足りない感じがしたけれど、後半の小万殺しになると風貌もよく活かされて狂気の度合いに相当な迫力があった。菊之助の小万も全体にリアルな演技に終始して、後半になるとこの女の切なさが滲み出てくる。主役三人とも期待相応の演技だったが、国生の若党役にはまだ無理があり、その点で脇筋の悲劇は影が薄くなった分、後半は源五兵衛の心象風景としての色合いがぐっと濃くなって、結果オーライの舞台であるのは皮肉というべきか。
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