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2011年02月07日

焼肉ドラゴン

飲食店の名前ではなく、今宵、新国立劇場で見た芝居のタイトルである。念のため。
鄭義信の作・演出で日韓合同のキャスト・スタッフを擁したこの作品は、初演の評判が非常に高かったにもかかわらず、見逃していたから今回は待望の再演で、見られて本当によかったと心から思える秀逸のステージであった。70年の大阪万博前後の時代を背景に関西の在日コリアタウンを舞台にして、イジメや立ち退き問題などを通して当時の在日の人びとの深刻な実情を浮き彫りにしたリアリズム演劇ともいえるし、またそこで焼肉店を営む夫婦と、その息子、娘たちとその恋人の織りなす一種の人情劇ともいえて、部分的には『屋根の上のヴァイオリン弾き』やチェーホフの『三人姉妹』『桜の園』、あるいは台湾映画『非情城市』を想いださせるところもあるけれど、前半の雰囲気は吉本新喜劇のノリでくすくす笑いながら見てられるのだった。ところが後半は、これからご覧になる方もいらっしゃるだろうから敢えて伏せておくが、ドキッとするシーンやしみじみと胸に迫るセリフがあって、桜吹雪の舞う美しい幕切れでは久しぶりにぼろぼろ泣いてしまった。それぞれの登場人物に深い味わいがあり、またそれを実に味のある俳優が演じていて、ことにオモニ(母)役の高秀喜には脱帽だ。劇中に70年前後の流行歌や流行語がふんだんに取り入れられているのは私たちにとってただ単に懐かしいのみならず、あの頃の高度経済成長下で、私たちは何を踏みにじってきたか、そこに何を置き忘れてきたか、それを今改めて問い直させる効果があって、その意味ではただ単に在日問題を扱ったに留まらない、普遍性を感じさせる作品でもある。


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