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2010年11月19日

天ぷら

東京芸術劇場で「巨大なるブッツバッハ村」を観る前に池袋ルミネ内の「つな八」で進藤さんと食事。
ドイツ語圏で多彩な活動をするクリストフ・マルターラー演出の作品をご案内下さったのは「フェスティバル/トーキョー」の事務局長を務めてらっしゃる蓮池奈緒子さんで、チラシを見て興味が湧いたから、無理を言って急遽チケットをご用意戴いたのだった。一口では説明しずらいが、ある種の音楽劇ともいえる舞台で、
登場人物全員ことあるごとに集っては綺麗なハーモニーで合唱したり楽器を演奏したりする。歌はバッハやベートーベン、マーラーのクラッシク歌曲からバブル時代を髣髴とさせるビージーズのナンバーまで。といってもオペラ風でもなけれな賑やかで快活なミュージカルでは全然ない。ブッツバッハというのは意味不明だが、舞台は高層ビルのオフィスと郊外住宅のガレージを合体させたような空間で、そこに年齢まちまちの十数名の男女が出入りして、幾分コミカルでとてもアンニュイなパフォーマンスを次々と繰り広げ、全体に諦観のようなものが漂う。最初人びとの会話は不条理で意味不明のようでいて、次第にどうやら高層ビル内のオフィスが金融危機で瓦解に向かう様子を描いたものらしく見え始め、それは金融資本主義に翻弄された消費社会の末路であるかに思えるのだけれど、実はそうではなくて「私たちはもうずっと生産過剰型社会に生きているのだ」という先進国的ならではの徹底したニヒリズムが語られるのは、まさにコンテンポラリーな認識を共有できて非常に面白く見られた。故にかつては共に神に向かって歌えた人びとが最後は集合して歌えなくなり、それでもひそかな歌声は家庭を象徴するガレージから静かに流れてくるというエンデフィングも、妙に楽天的でもなければ悲壮感を煽ることもなく、かすかな希望を感じさせる幕切れとして納得できる。


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