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2010年09月14日
さいたまゴールド・シアター公演「聖地」
どうなることかと思われた民主党代表戦も菅氏の意外な圧勝?で幕を閉じた今日は、新代表の就任会見を見届けてからでも十分間に合う距離になった「さいたま芸術劇場」で「ゴールド・シアター公演」を初観劇した。蜷川幸雄氏が平均年齢70歳以上の高齢者42人を鍛えてノンプロ役者に育てた劇団ながら、発足当初から絶賛して最初にオススメくださったのは演劇評論家の徳永京子さんで、その後TVのメイキングドキュメンタリーで感心し、一度観たい観たいと思いながら見そびれていたが、今回は翻訳家の松岡和子さんからお誘いを受けてようやく観ることができたのだった。
新鋭劇作家松井周による今回の作品「聖地」は、70歳になれば自由に死ねる権利を与える「安楽死法」なるものが制定された近未来の日本を舞台にして、来るべき死と向き合う高齢者ありようとそれを取り巻くさまざまな現象をブラックに、かつコミカルに描いて、無常観をi一方の基調としながらも、人生のロマンチシズムをもそこはかとなく匂わせ、作風はまるで違うが、蜷川演出の力に与って清水邦夫のドラマを髣髴とさせるような幻想的なシーンも見受けられた。「楢山節考」やP・D・ジェイムズの「人類の子供たち」、カズオ・イシグロの「私を離さないで」などを髣髴とさせるというよりも、意図的に踏まえたケースもありそうな設定や筋立てで、大枠ストーリーのオリジナリティーは取り立てて云々するほどのこともないが、42人全員とはいわないまでも数多くの役者を登場させて、それぞれにハメ書きでもしたかのよに各登場人物のキャラがしっかり立っていることでは秀れた台本といえるだろう。それにもまして役者各位が実に活き活きとキャラ立ちしてとても魅力的に見えることは特筆すべきで、技術的にもプロに遜色ない人が意外なほど多いのもさることながら、それぞれが人生の年輪に裏打ちされた心身を備えている結果、ちょっとしたセリフのひとつひとつに深みが感じられ、役者としての佇まいも美しいことに驚かされる。演劇にはまだこういう可能性があったのか!と目を見開かれる思いで上演時間3時間以上の長丁場を少しも飽きずに観ることができた。演劇好きの方には一度ご覧になることをオススメしたい。
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