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2010年04月27日

歌舞伎座さよなら公演PART2

歌舞伎座四月御名残興行の第1部と2部を旧友の河合真澄教授と一緒に見てから銀座「竹葉亭」に向かった。1日1食なので、ステーキの翌日が鰻であります(笑)。
第1部の序幕は若手花形の「だんまり」で、この演目の常として、役者それぞれの器の大きさやパワーといったものが如実に出て、皆まだまだこれからの役者だということが、自他共に頗るはっきりするのがいい。三津五郎が座頭格として登場するが、彼は「助六」の福山のかつぎ役のほうがニンかもしれない。
二幕目は義太夫狂言の「熊谷陣屋」で、主演の吉右衛門は相変わらず時代物を演じながら「世話」になる憾みがある。前半の「物語」で底を割って泣きすぎるために、却って後半の悲劇が身にしみないという単純な理屈を、周囲でだれか指摘してあげる人はいないのだろうか。もともといい役者なのだから、その悪いクセさえなくせば、この芝居をもっと感動的に演じられるはずで、以前はちゃんとやってたのに、一体どうしてこんなにいかにも現代人がアタマで考えたような演技をするようになったのだろう。古典物は何度も何度も同じことを繰り返すのだから、演者だって、観客だって、話の成りゆきがどうなるかなんて当たり前にわかっているのだけれど、だからこそ先が決してわからないように演じること、すなわち登場人物の人生に、たった1度起きる出来事だという風に見せることこそが、古今東西を問わずドラマの鉄則であり、そんなふうに演じなければ本当の感動とは結びつかないのだという点を、周囲のだれかが本気で指摘すべきではなかろうか。また「物語」中の見得や制札の見得なども思いきって大時代に演じたほうが、古典悲劇ならではの深みに達するという点も併せて申し添えておきたい。とにかくこの芝居は熊谷が中心にしっかりと座ることで全体の統一を図らなくてはならないにもかかわらず、今回は大顔合わせの結果として、だれもが勝手な解釈でバラバラに演じているのが大問題で、富十郎の弥陀六は武智歌舞伎並に本行(ほんぎょう)に則っている面白さもあるにはあるが、全体の中では浮いてしまい、段切れ近くになるとふつうは各人のセリフやしぐさの足取りが統一されてゆくのが音楽劇としての義太夫狂言の醍醐味なのに却ってバラけてゆくので観客は芝居に集中できず、感動のツボを捕らえ損ねてしまうのである。義太夫狂言が古典劇になりやすかったのはひとえに足取りが統一しやすかったからだという点を関係各位に改めて再認識して欲しいと強く感じさせた舞台だった。
しかしながらは第2部の「寺子屋」を見て、「熊谷陣屋」はまだはるかにマシだった!という事実に愕然としたことである。吉右衛門は世話がかっている憾みがあるとはいえ、義太夫狂言の根本は決して外してはいないのだけれど、幸四郎の松王に至っては、義太夫狂言をこんなに「我流」に演じてしまうのを周囲が許容していること自体がとても不可解だし、こういうことを許しておく劇評家の怠慢も問われてしかるべきだろう。共演者もなんだかやりにくそうで、千代役の玉三郎も何年か前に仁左衛門の松王で演じたときとは別人のように精彩を欠いた舞台である。今回源蔵役にまわった仁左衛門は戸浪役の勘三郎とやたらに抱き合うのもちょっとヘンなのだが、それがまるで、私たちは松王の芝居とは関係なくやりましょうねえ、と互いに確認を取ってるみたいに見えておかしいくらいだった。
第1部の大切りは中村屋一家3人の「連獅子」で、これは2人の「連獅子」に比べると、ドラマチックな印象が多少薄くはなるけれど、スペクタクル的にはサービス満点で、観客には大いに受けていたようである。
第2部の大切り、坂田藤十郎の「藤娘」はいささか東宝歌舞伎の匂いがしないでもなかったけれど、年齢を考えると信じられないくらい若々しく見えたし、躰から滲み出る愛嬌の点では、やはり一番役者らしい役者といえるのではないか。第2部の中幕で「三人吉三」を演じた菊五郎、吉右衛門、團十郎の3人が、以前と比べてかなり分別くさく見えたので、余計にそんな気がしたのかもしれない。
ともあれ御名残興行も残すところあと1日ながら、歌舞伎役者は今後も末永い精進を重ねてより良き舞台作りを目指して欲しいと切に思われたのでした。


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コメント (3)


いよいよ歌舞伎座もお別れですね 涙涙ですがどんな新しい劇場になるのか楽しみでもあります。でもきっと歌舞伎座特有の楽しい猥雑さ?はなくなってしまうのでしょうね。最近はお土産売り場がやたらとのさばっていましたが今観た芝居の話をかわせるようなスペースがあるといいですね。
今朝子様の評 なんだか武智先生を彷彿とさせる感じです。もしかして乗り移った?

投稿者 ねこ かおる : 2010年04月28日 10:53

ブログをいつも楽しく拝読させていただいています。
年金暮らしでは4月のチケット全部は無理、立ち見に延々と並ぶ元気もなく第3部だけをゲット、ブログを読んでこの選択正解だったかもと感じています。キモノを着てエイッと気合を入れて、さぁ楽しむぞと出かける、その期待を裏切らない「歌舞伎」が味気なくなっては老後が寂しいです。1読者として、小説もみな読ませていただいていますが、是非是非今後も歌舞伎に辛口のご批評ラッパをと切に期待いたしております。

投稿者 さらだ : 2010年04月28日 11:20

劇評家も悪し、松竹も悪し、しかし結局はわかりやすさを喜ぶ現代の観客それぞれの責任ではないかとも思ったりしますが、
よくもわるくも、今の第一線の役者を得意の演目でそろえた結果が今月4月の興行であったのだろうと思います。
歌舞伎座が取り壊しになると歌舞伎そのものが終わってしまうかのような騒ぎになっていますが、現実には来月以降も演舞場
そのほかで興行があるわけで、そこにどの程度お客は来るのか、人ごとながら心配なこのごろです。

投稿者 nami : 2010年04月28日 13:49

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