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2010年03月19日

幕の内弁当

日生劇場で「染模様恩愛御書(そめもようちゅうぎのごしゅいん)」を観て幕間に食事。俗に「細川の血だるま」と呼ばれていた芝居で、先に関西で復活上演されてわりあい良い評判を聞いたし、なにしろレアモノなので観たくなった。歌舞伎で「血だるま物」のルーツは江戸時代中期に遡り、明治時代には小芝居でよく上演された演目で、テーマはずばり衆道すなわちホモセクシャル関係なのである。テーマもテーマだし、ラストは必ず主人公が切腹して大切な品物を腹中に隠し守るという筋立てなので、私が若い頃にこの芝居の話を聞いたときは、とてもおどろおどろしい作品をイメージしたものである。そのイメージで観ると全く肩すかしを喰らってしまうが、現代に上演するならヤオイ系女子の客層を狙って、少女マンガ的なライトテイストになり、つまり要の衆道シーンにギャグが盛り込まれてコミカルに見え、随所で観客の笑いが起きるのも、むろん計算済みだろうし、主演する染五郎のキャラにはこうした演じられ方がふさわしいかもしれい。相手役の
愛之助も巧く歩調を合わせている。たまたま出会った若衆に一目惚れして追っかけまわしたあげく、他家に勤める立派な武士の身分を捨てて出奔し、その若衆が勤める細川家で中間奉公までするという主人公を筆頭に、登場人物が皆とにかく呆れるくらい自分の欲望にまっしぐらだから、ストーリーがとてもわかりやすいし、象徴的な舞台装置を使ってスピーディーに展開するので観ていて飽きるところはないけれど、如何せん、座組と、仕込みが、共に薄すぎる印象は否めない。象徴的な舞台を使うときはことに照明が重要になるが、予算の関係なのかあきらかに吊り込みのライトが足りない感じである。とくにラストの火事場で主人公が火だるまになる(念のために書くと、火だるまになって腹を切り血だるまにもなるのである)シーンは最大の見せ場であるだけに、もっと迫力のある場面を期待していた。ともあれ、もともと小芝居的な作品なので、もう少し小さな劇場で上演すれば、この程度の座組と仕込みでもスカスカした感じにならずに済んだのではないか。芝居は容れ物を選ぶのも肝腎だろう。


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