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2009年10月07日

タラコスパゲティー

天王洲アイルの銀河劇場で井上ひさしの新作「組曲虐殺」を見る前に近くで食事。
「蟹工船」が再び脚光を浴びるようなご時世となった今日に、小林多喜二を主人公にした新作ドラマを書き下ろした作者のタイムリーさにまず敬意を払うべきだろうが、井上氏ならもっと早く取りあげていてもおかしくない人物である。で、小林多喜二の人となりや、プロレタリア作家になって、特高に虐殺されるまでに一体どんな人生を送っていたのだろう?というような興味を持って舞台に臨んだら、ちょっと肩すかしを喰らうかもしれない。パン工場で働きながら苦学したり、学校卒業後に銀行員になったりというような経歴はほんの少しかする程度で、左翼運動における実際の活動にもあまり触れられず、作者はもっぱら彼の文学性を「人にとって『かけがえのない光景』をカラダ丸ごと使って表現したこと」にあると見て、ほぼその一点に絞りきってドラマを作り上げている感じだ。登場人物も彼の妻と姉と恋人、特高の刑事2人という非常にシンプルな設定で、それらの脇キャラはいずれも面白く書けてはいるにもかかわらず、肝腎の小林多喜二に関しては、途中で一時期「転向」したのかと思わせるエピソードを取り入れつつも、そこにあまり深入りはせず、とにかく終始一貫ピュアな左翼文学者として描かれているのが少し物足りないといえなくもない。ただしそのピュアさから生まれる彼のコトバとしてのいいセリフや歌があり、井上芳雄という歌唱力のある男優が演じたおかげで、歌のコトバが粒だって聞こえたのも幸いした。姉役の高畑淳子、妻役の神野三鈴、恋人役の石原さとみ、刑事役の山本龍二、山崎一らキャストも粒揃いで、小曽根真の音楽がまたとてもいいために、結果としてコンパクトにまとまった好舞台という印象を受けた。


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