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2006年11月07日

おでんほか

 三軒茶屋シアタートラムで宮沢章夫作・演出現代能楽集『鵺』を文春の内山さんと見た帰りに近所で食事。
 渋谷のシアターコクーンで蜷川幸雄が清水邦夫作品を上演しているちょうど同じ時期に重ねてトラムでこの作品を上演したというおかしさをまず買いたい(笑)。
 この作品の主人公はあきらかに蜷川さんをモデルにした演出家(上杉祥三)で、彼が若い役者を引き連れて海外公演に行って帰国する際に空港のトランジットで缶詰状態になり、そこでかつて演劇活動を共にしたアングラスターの亡霊(若松武)に再会し、裏切り者呼ばわりをされ、かつて自分たちの演じた芝居を今の若い役者が演じる姿を幻視させられるという設定だ。おまけにそこで使われるのは清水邦夫の作品なのだが、決してオマージュとしてではなく、当時のポエティカルなセリフはことごとく解体されて、若い役者の空疎な発声によってパロディ化されてゆき、この間に「時代」が確実に変わったことを「鵺」=かつてのアングラスターの亡霊に悟らされるのである。空港のトランジットはどこの国にも属さない宙ぶらりんの空間であり、そこに亡霊=過去が降り立つという設定はよく「能楽」を踏まえている。且つ演劇的セリフとは何か、役者とは何かといった論議が尽くされる極めてメタシアター的要素も孕みつつ、あまりにもモデルを限定して露骨に70年代演劇の状況に寄ったあまり、いささか下世話な業界物にしか見えてこないのは如何ともしがたい。それはそれで面白いとはいえ、観客を限定した狭い作品になった憾みはある。ただ蜷川さんの関係者はこれご覧になってどう思われるのかをちょっと訊いてみたいという、こっちも下世話な興味が湧いたのだった。


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