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2006年10月05日

八寸、お造り、土瓶蒸し、炊き合わせ、鰆の幽庵焼き、海老と卵豆腐の揚げ出し、蟹の酢の物、松茸ご飯ほか

 明日入稿予定の原稿を午前中に仕上げ、「そうだ、京都、行こう」と急きょJR東海したというわけではなくて(笑) 、祇園歌舞練場の「京舞」公演を観るために日帰り旅行をしたのである。
 祇園甲部の花街では例年10月初旬に温習会を催し、春の「都踊り」がどちらかといえば一般観光客向きなのに対し、秋のこちらは専らご贔屓筋や通の観客が多い会として知られているが、今年はそれに代えて祇園甲部専属の舞師匠であった4世井上八千代の3回忌追善興行が催されることになって、少しは井上流を習っていた者としてもここは駆けつけないわけにはいかなかった。といっても仕事の関係で行けそうだという気がしたのはチケットの〆切が過ぎた時点だったので、超超プレミアのこのチケットはとても取れないと思っていたのに、魔法のように取れてしまうところが私のコワイところである(笑)。
 ともあれ例年の温習会の雰囲気も大いにあって、幕間には髪を夜会巻き風に結ったおかあさん、お姐さんたちが、ご贔屓のいる客席にご挨拶をしまくるという花街ならではの実にプロっぽい舞踊会であり、東京からも古典芸能関係者がどっと詰めかけていて、知り合いが大量にいるロビーで挨拶しだすと面倒だから、私はずっと顔を伏せながら逃げ回っていたのでした(笑)。
 井上流について詳しく説明しだすと徹夜でブログを書いても追っつかないので割愛するが、とにかく京舞とか地唄舞とかいう言葉から想像されるような、優雅で嫋々とした舞踊では全然ないということだけはハッキリと申しあげておこう。およそ日本の伝統舞踊の中でもこれほどエネルギッシュなものは珍しいといえそうな流儀であり、能の影響を強く指摘する向きがあるものの、人形浄瑠璃の影響がさらに大きく、また文化文政期の上方歌舞伎舞踊のアクロバティックな要素が伝承されているケースも多々あると考えられる。代々の井上八千代がいずれも長寿で且つ傑出した舞踊家であったことに加え、近代以降祇園町という特殊な空間のみに伝承されてきた結果、数ある流派の中でも古体を比較的崩さずに今日にまで生き延びた、わかりやすくいえば日本舞踊界のイリオモテヤマネコ(?)だと思ってもらえばいいのかもしれない。
 一昨年98歳で亡くなった4世八千代は紛れもなく近代の名人であった。思えば日本の古典芸能はいずれのジャンルにも「名人」と呼ばれる傑出した存在が現れたからこそ戦後の荒波をくぐり抜けて今日に命脈を保ったといえるのだが、4世八千代が戦後一躍天才舞踊家として世間に広く知られるようになったきっかけを作ったのは「長刀八島」という演目で、当時NHKが収録したVTRの粗い画像で観てもそれがどれほど気迫のこもった素晴らしい舞台だったかは十分に伝わってくる。
 で、今日10月4日は4世の孫である当代の八千代がその「長刀八島」を演じるというので私は勇んで京都に駆けつけたのだが、正直なところ、今回は評価は敢えて見送らせて戴きたい。追善興行でなにせ自身も多数の演目を抱え、且つ追善の主宰として門弟全員の稽古までつけての奮闘の中ではこの演目一本に絞りきっての集中力はとても発揮できなかっただろうと思う。それにしてもこうした偉大な芸人の跡継ぎはむろん有利な点も大いにある反面、常に先代と比較される気の毒な面がなきにしもあらずで、ことに映像が残る時代になったから余計だろう。
 ただし今回思わぬ拾いものだったのは当代5世八千代の娘安寿子の成長で、「伊達奴」という、これも井上流だけに伝わる非常にパワフル且つアクロバティックな舞踊をみごとにこなした。まだまだ荒削りだが、この若さでこれだけの力が発揮できれば関係者もさぞかし将来が楽しみなことであろう。
 4時開演6時半終演というスピーディさも花街の公演ならではで、終演後は観客の多くがお茶屋に繰り込み、私はいうまでもなく「川上」で晩ご飯である。いやー、やっぱり何を食べても美味しいのであるが(笑)、やはりお造りに出る明石の鯛は絶品!土瓶蒸しも松茸ご飯もこないだ自分が作ったばっかりで、それこそ比較してしまい、味の違いに愕然とした!のは当たり前である。
 写真は上から海老芋と生麩と湯葉の炊き合わせ、新作メニューの海老と卵豆腐の揚げ出しと蕪の煮物、オシャレなサラダ仕立てにした蟹の酢の物。


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コメント (2)


ご無沙汰しております。
初日を拝見した帰りに「川上」さんに寄せていただきました。
こちらのブログのことも話題にのぼりました。
そのあと、2日・3日と拝見してきました。満足。
京舞についての描写、まさしく納得!です。
ではまた、いずれどこかの劇場でお目にかかりましたら。

投稿者 O : 2006年10月10日 19:44

大越さんですよね。ご無沙汰しております。近ごろは出不精になっておりますが、また何かいい舞台があればお知らせください。

投稿者 今朝子 : 2006年10月10日 22:49

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