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2006年08月27日

続々 夏休みの旅行

 地方の農村などで土地の人びとによって伝承されている歌舞伎を地芝居と呼んでいるが、美濃地方は松本団升という良き指導者がいたこともあって、今でも地芝居が盛んな土地であり、古い芝居小屋も何軒か残されている。この日8/26の夜は瑞浪にある相生座で地芝居の興行があると聞いて、ちょうどたまたま付近に居合わせた者としては見なけりゃ損だという気になった。地芝居にも色んなレベルがあって、ここのはかなり水準が高いほうだという評価を前川さんから伺っていたことも私がそそられた理由のひとつである。
 瑞浪駅からまたタクシーで延々と山奥に入ったところにあるその芝居小屋は有名な四国の金丸座よりもやや小規模ではあるが、屋根の下には一本造りの巨大な梁が何本も見え、堅牢さにおいては金丸座を凌ぐ立派な建物であるのにまず驚かされた。前川さんが指摘された通り、さすがに材木の豊富な土地柄が生んだ芝居小屋だというべきなのかもしれない。
 演目はまず子どもたちによる『蟇妖術滝夜叉姫』で、タイトルだけ見ると歌舞伎舞踊の『忍夜恋曲者』を子ども向きに上演するだけかと思ったが、ドッコイこれがとんでもない掘り出し物で、山東京伝の読本『善知安方(うとうやすかた)忠義伝』にの筋に近いところを見れば、本家のほうではとっくに伝承が絶えた『世善知相馬旧殿(よにうとうそうまのふるごしょ)』が何らかの経緯でこの土地の松本団升に伝わって、丸本仕立てにされたのではないかと想像される台本なのであった。女性が中心となる軍記物という珍しいパターンの演目だけに、市川亀治郎あたりが本興行で復活したら非常に面白いのではないかと思った次第。今回は客席で歌舞伎の制作者や研究者をだれも見かけなかったが、松本団升系の地芝居はやはりそのつどしっかり目を行き届かせるようにオススメしたいところである。
 子どもだけでなく大人もちゃんと演じて、これにはむろん下手な人も巧い人もいるが、竹本の語りや三味線は素人の域を完全に脱した巧さで、それもそのはず地元の各座をかけもちするいわば半プロのような人たちらしい。で、舞台には本格的に回り舞台もあって「俊寛」を立派に上演した。素人役者がみごとにきめると五円玉を紙に包んだおひねりが客席から雨あられと降り注ぐのもこうした舞台ならではの面白さであった。
 夕方5時半から夜の9時半までしっかりと見届け、なんとか多治見までたどり着いて一泊し、きょう27日は名古屋にもどってもう少し何か見ておこうかと思ったが、デパートの中でも暑いのに恐れをなし、とにかく味噌煮込みうどんパックと味噌カツ弁当だけはゲットして早々に退散し、東京駅に降り立ったとたん、ああ、ここはなんて涼しい街なんだろうと思った私であります(笑)。
 なお写真はどれもクリックで拡大できます。


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